映画「能登デモクラシー」は東京・ポレポレ東中野、大阪・第七藝術劇場で公開中、24日から金沢・シネモンドほかで公開(c)石川テレビ放送
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 それは町議会への不信からはじまった。能登半島の中央に位置する石川県穴水町で取材を進めるディレクター。そこで目撃した「デモクラシー」の再生とは。AERA2025年5月26日号より。

【写真】能登でもっとも人口の少ない町に五百旗頭監督が注目

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 石川県穴水町。能登でもっとも人口の少ない町に石川テレビのディレクターで監督の五百旗頭幸男(いおきべゆきお)さん(46)が注目したのは、前作「裸のムラ」の登場人物で同町に住む中川生馬さんからの情報だった。

「吉村光輝町長がコンパクトシティ構想を掲げ、自身が理事長を務める社会福祉法人の新施設を国からの補助金と町とで負担して建設するという。あからさまな利益誘導が普通に行われ、それを議会がスルーしている。町長と議会の二元代表制が崩壊し、民主主義が機能していない、危機的な状況だと思ったんです」

滝井さんとの出会い

 2023年1月から取材を開始。だが、カメラの前で本音を語る人は少ない。そんななかで出会ったのが本作の主人公となる滝井元之さん(80)だ。20年から手書き新聞「紡ぐ」を発行し、町議会への疑問や意見を人々に届けていた。

「こんなに小さな社会で行政や議会にはっきりともの申している人がいることに驚きました。『紡ぐ』は4年間で当初の180部から500部に発行部数を増やし、年間発行費用100万円のうち70万〜80万円はカンパでまかなわれていた。声を上げられない人々の代弁者なのだと感じました」

 カメラに映る滝井さんは終始温厚だ。7匹と妻・順子さんと暮らし、テニスコーチなどボランティアに忙しい。私利私欲など一切なく、町のために動く姿は胸を打つ。それでも、町をめぐる状況に大きな変化はなかった。

 が、24年1月1日の能登半島地震で様子は一変する。穴水町は死者33人、全半壊1900棟。監督は2日朝に町へ入るが滝井家のある集落へ辿り着くことはできなかった。

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