
「避難所ではみな口々に『どうせまた輪島や珠洲だけ』『穴水はほったらかしだ』と見捨てられ、切り捨てられる不安を吐露していた。実際そのときのニュースは輪島の火災一辺倒だったんです。自分もメディアの人間として、いたたまれない気持ちでした」
3日に滝井家に到着。滝井さんはすでにボランティア活動で家々を訪問し、声をかけあっていた。そして滝井さんの地道な活動に呼応するように町に変化が起き始める。
「避難所などで町長と対峙した町民たちが『これに困っている』『ここを変えてほしい』とはっきり言うようになった。明らかな変化がありました」
あるべき民主主義
監督がもっとも大きな変化を感じたのは吉村町長だ。コンパクトシティ政策は維持しつつも、地域を切り捨てずコミュニティーを維持させる方針を復興計画に記した。町民から意見を聞き、そのうえで議会や行政が町民のために機能する。あるべき「民主主義」が再生しはじめたのだ。
さらに24年5月に本作のテレビ版が放送されると町議会に傍聴者が急増。仮設住宅をまわる滝井さんに町議会議員が同行するようになった。
「これまで見向きもしなかった議員が態度を変えてきた。正直、滝井さんには思うところもあるはずです。しかしそれは隅に置いて『一緒にやりましょう』と受け入れる。そこにコミュニケーションが生まれる。立場や意見の違いがあっても分断はない。これこそが民主主義を支える重要な基盤だと思うんです」
ラストは自分なりの「デモクラシー」への姿勢だと監督。
「滝井さんの活動はSNSやネットでバズらせるような行為とは対極にある。地味だけれどコツコツと積み上げてきたからこそ信頼され、それが変化につながった。メディアもその姿勢を忘れず、長期的な視線で政治をチェックし続けることが大切です」
(フリーランス記者・中村千晶)
※AERA 2025年5月26日号
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