
気づかぬうちに「不法滞在者」に
英語が堪能で行動力がなければ、訴訟どころか、弁護士から的確なアドバイスを引き出すのも困難と思われる。弁護士や訴訟に費用もかかる。
事態が深刻なのは、留学ビザの取り消しや滞在資格の抹消が「警告なし」に行われていることだ。そのため、本人が気づかないうちに「不法滞在者」となる恐れがある。
「不法滞在者は逮捕、国外退去となり、二度と米国に戻れない」と、国土安全保障省のマクローリン次官補は警告する。
米国移民弁護士協会によると、1月以降、全米で約4700人の留学生が滞在資格をはく奪された(4月17日時点)。当局による拘束を恐れ、「片道きっぷ」で無念の帰国をした留学生のケースも報道されている。
在米国日本大使館も注意喚起
米国は最も人気のある留学先で、1万3517人もの邦人学生が滞在している(2023年度、日本学生支援機構調べ)。
滞在資格や留学ビザの取り消しの増加について、外務省の北米1課の担当者は、「相談件数や相談内容については話せない」としたうえで、こう語った。
「ワシントンにある大使館や、各地域にある領事館では、留学生からお話をうかがったうえで、在留資格に知見の深い弁護士を紹介しています」
5月1日、在米国日本大使館は、この問題について注意喚起をうながす「領事館メール」を留学生らに向けて配信した。
法令を遵守し、SNSに政府批判を書き込むな
留学生を送り出す教育機関は、どう対応しているのか。
NICインターナショナル・カレッジ・イン・ジャパン東京校で学ぶ約200人の学生のうち、昨年は4割強が米大学へ進学した。
これまで、NICを卒業して渡米した学生で滞在資格を取り消されたケースはなく、今年9月入学に向けて準備する生徒の間でも特に動揺はないという。
「ただし、どのような理由で滞在資格が取り消されているのか、明確でないので、海外大学のアドバイスを基に車のスピード違反など軽微なことであっても法令を順守するように、滞在資格に関係する履修のルールもきちんと守るように伝えています」(NICの担当者)
SNSに米国政府を批判するような内容を書き込まないようにも注意をうながす。
創立以来38年、NICで米国留学は不動の人気を誇ってきた。しかし今年は、初めて英国留学希望者が上回った。
「米国留学」の引力は急速に失われつつあるようだ。
(AERA編集部・米倉昭仁)
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