NBCテレビで、明確な理由なしに滞在資格が抹消された理不尽を訴える恩田賢さん

再度「資格」を得られる確証なし

 恩田さんは大学の弁護士からこの問題に詳しいニューヨークの弁護士ら数人を紹介された。それぞれの弁護士事務所に連絡して、無料のオンラインセミナーに参加するなどして相談したものの、「いずれの道を選んでも再度、滞在資格が得られる確証はない」というのが見解だった。

「帰国も考えて、荷物をまとめ始めました」(同)

 知人から紹介された弁護士に30分200ドル(約2万9000円)の料金を支払って相談すると、「訴えたほうがいい」とアドバイスされた。同じ境遇にある同州の留学生8人とともに集団訴訟を起こすことを決意。当初、「訴訟を起こせば、費用は1万ドル(約146万円)かかる」と言われたが、集団訴訟なら費用を抑えられるうえ、係争中は米国に滞在できるメリットもある。

メディアに理不尽を訴えた

 同じ弁護士から、「メディアに出て、明確な理由なしに滞在資格が抹消された理不尽を訴えたほうがいい」ともアドバイスされた。

 恩田さんは、地元のメディアに連絡した。多くの留学生は政府機関の「標的になる」ことを恐れて、匿名を希望したため、取材には恩田さんが対応。全米のネットやラジオでニュースになった。

 当初、恩田さんは子どもたちに帰国しなければならなくなるかもしれないことを伏せていた。ところが、子どものサッカーの試合を応援しに行くと、ABCテレビの中継車が止まっていた。チームメートの保護者が大勢いる前で、インタビューが行われた。

「少なくとも私に滞在資格を抹消することを通知するか、連絡を取って、何らかの説明をしてくれるべきなのに、何もないんです」と、語った。

提訴から30分後に急展開

 国外退去期限の前日である4月18日、恩田さんらは滞在資格の回復を求めて、司法長官や国土安全保障省などを連邦裁判所に訴えた。

 事態が急展開したのは提訴からわずか30分後。国土安全保障省から大学に、「恩田さんの資格を変更した」という連絡があったのだ。

「大学から『いい知らせがある』とメールがあった。すぐに留学生課に駆けつけると、滞在資格が回復されたことがわかったんです」(同)

 恩田さんは裁判の原告から外れた。その後、他の留学生8人の滞在資格も回復された。

「この問題に精通した弁護士のおかげです。彼のアドバイスがなかったら、退去せざるを得なくなっていたかも。滞在資格も戻ってこなかったかもしれない」(同)

 だが、恩田さんの事例は幸運なケースだろう。

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