EU、カナダも報復措置を掲げながら「対峙」

 それでも中国の国民が政府とともに「粟と歩兵銃」の精神を堅持したまま米国と戦い続けることができるのか。国共内戦の時とは時代が異なる。豊かな暮らしに慣れた国民も多い。

 中国が目指す米国に依存しない経済構造への転換という目標は共有できても、そう簡単には実現できない。10~50年計画で物事を考える政府に国民がついていけるのか。その点にも不確実性がある。

 そう考えると、悲観的な要素が多いようにも思えてくるが、最近の中国産業が私たちの想像をはるかに超えるスピードで発展したこと、さらには、その背景には政府による極めて長期的視点に立った戦略があったことを考えると、今回の危機においても、私たちが知り得ない統計データを的確に見極めながら、中国経済を驚くほどのスピードで変えてしまうことができるのではないかという気もしてくる。

 もし、中国政府がこれに失敗すれば、世界経済の最大の牽引車が一つ欠け、世界経済にとっての損失は甚大なものになる。中でも、中国への依存度が高い日本経済には大打撃だ。

 本来は、日中が他のアジア諸国などと協力して、トランプ関税という前代未聞の横暴に立ち向かうべきである。

 しかし、米国の暴挙に対して、中国のみならず、EU、カナダなどが報復措置を掲げながら対峙しているのに対して、日本政府は、報復は完全に封印し、トランプ大統領にただただひれ伏してご機嫌をとり、慈悲を乞うという態度に終始している。嘆かわしい限りだ。

 中国がトランプ関税という許されない暴力に対して敢然と立ち向かい、これを克服することを、世界、そして、とりわけ日本経済のためにも期待するのは、決して私だけではないと思う。

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