米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)

「米国人には耐えられないことも中国人には耐えられる」

 米国が繰り出した145%という数字はさすがに予想外だっただろうが、米国との貿易戦争が起きることは想定の範囲内だ。それに備えて対米輸出依存度を下げて他の地域への輸出を拡大し、大豆、豚肉など庶民の生活に欠かせない物資の対米依存度も下げていた。

 そして、貿易戦争は来るべきものと予想していたことで、心理的に劣勢に陥ることもなかった。

 誤算その3は、中国は1〜2年ではなく10〜50年単位で考える国だということだ。短期では大きな被害を受けても、それに耐えることで長期ではより大きな成果を得られるのであれば、短期の被害を甘受しようと考える。今回の試練を乗り越えれば、米国への依存を断ち切り、対等に戦える真の強国となれる。そう考えれば、短期的な痛みは産みの苦しみとして甘受できる。

 誤算その4は、市場の力が米中両国にどう働くかを読み誤ったということだ。米国では、株、債券、通貨の三つが同時に下がるトリプル安という形で、市場の反乱が起きた。中国が米国債を大量売却するのではないかという恐怖感も背景にあった。

 これをなんとか沈静化するには、米中関税戦争を小休止するしかないというところにトランプ大統領はあっという間に追い込まれたのだ。

 一方の中国は、政府系ファンドが株を買い支えるなどして、市場を事実上直接的にコントロールできた。また、中国の財政は米国よりもはるかに健全で、赤字国債を発行して企業の支援に充てることができるということもアピールし、市場を下支えした。

 基本的に市場の動きを政府が直接抑えられない自由主義経済の米国と管理経済の中国との差が出たのだ。

 そして、最後の誤算が、「米国人には耐えられないことでも中国人には耐えられる」ということだ。

 米国の企業や国民は、ロサンゼルスの港で中国からの貨物が激減する様子を見て、中国製品なしの経済・生活を想像してしまった。中国依存度の高い企業が倒産の危機を思い浮かべ、スーパーの棚から商品が消え始めたというニュースを見て、とても生きていけないと庶民は悲鳴をあげた。トランプ政権の支持率も下がった。

 米国人は所得以上に消費する。彼らから消費を奪ったら、それは人生の破壊を意味する。これは、保守とかリベラルとかの政治的スタンスとは無関係だ。来年に中間選挙を控えるトランプ政権は、庶民の生活不安の声を無視することができなくなった。

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