
――「粟と歩兵銃」を知らずに負け戦を始めたトランプ大統領。
彼が豹変する日が来ることを願ってやまない。――
この文章は、5月6日配信の本コラム「145%の関税で中国が屈すると考えたのは甘かった…トランプ大統領が知らない『粟と歩兵銃』の精神」に書いた最後の言葉だ。
そのわずか6日後の5月12日、米中両政府は、互いに課している追加関税を115%引き下げると発表し、世界を驚かせた。しかし、本コラムの読者はそれほどびっくりはしなかっただろう。時期が少し早かったのは驚きだったかもしれないが、結果はほとんど予想したとおりだ。
メディアは、どうしてこうなったのかを後付け的に解説しているが、それも前述のコラムであらかじめ分析したのと同じような内容だ。
米中関税戦争第1ラウンドの軍配はどちらに上がったのかと言えば、「中国勝利」という見方が圧倒的に多い。少なくとも米側の勝利だという論調は見られなかった。
ただし、中国側にも合意せざるを得ない苦しい事情があったということもまた共通して指摘されることだ。
6日のコラムに書いたことと重なる部分も多いが、まず、145%関税をかければ中国が短期間で音を上げるだろうと考えた「トランプ大統領の誤算」についてあらためて整理しておこう。
誤算その1は、中国は他のどの国よりも「メンツにこだわる国」ということを米国が過小評価していたことだ。145%関税は、確かに、中国にとって破壊的な打撃を与えるものだった。日本が同じことをされたら、すぐに白旗をあげて、大々的な譲歩を申し出ていたであろう。損得を考えれば徹底抗戦は「損」だという計算が働くからだ。
しかし、中国ではそれは許されない。メンツが丸潰れになるからだ。どんなに苦しくても、自分から折れたという形は取れない。損得勘定を超えた判断が優先される。
それは、米側が譲歩せずに中国側が先に譲歩するシナリオはないことを意味する。
誤算その2は、中国はかなり前から米国との経済戦争に対する準備を進めてきたことを、米国が正しく理解していなかったことだ。前述のコラムで書いたとおり、中国は第1次トランプ政権の時から、必死に対米依存度を下げようとしてきた。