中国の「データ公開中止」の影響
中国政府が、「景気は気から」と考えて、企業や消費者にネガティブな情報を与えないようにしようと考える気持ちはわかるが、トランプ関税などの大きな困難にぶつかる中で、その影響がどう出るのか、世界中が関連するデータを欲しがっている時に、それが隠されるとなれば、逆に中国経済へのネガティブな見方に拍車をかける可能性がある。
もちろん、統計を出さないことは、統計がないことを意味しているわけではない。政府の関係部署は、最新のデータを入手できるはずだ。そこで正確な数字を把握すれば、的確な経済政策の立案に役立てることができる。
しかし、中国は社会主義だと言っても、実際の経済活動に占める民間企業のウェイトは高まっている。金融資本市場の参加者も庶民や海外投資家など幅広い。こうした民間のプレイヤーが正しい情報を得られなければ、正しい投資や消費行動を行うことができないから、いくら優秀な官僚たちが最善と考える政策を立案・実施しても、片方のエンジンが動いていないようなものだ。国の「正しい行動」と民間の不完全なあるいは間違った行動の合成の結果得られる成果は、決して最善のものにはならず、全ての情報を公開していた場合に比べてはるかに悪い結果になる可能性もある。
今回の合意によっても米国が課す30%関税は残る。145%関税よりははるかにマシだとはいえ、大きな壁が立ちはだかっていることに変わりはない。
90日の猶予期間内に新たな合意が成立して、関税のさらなる大幅引き下げや小口貨物への免税措置の復活が実現できれば、中国経済の回復も可能になるだろう。
しかし、第1ラウンドで中国を勝利に導いた「メンツの国」と「粟と歩兵銃」の精神という要素は、中国側からの安易な譲歩はできないということを意味する。145%関税で事実上の禁輸措置となった当初の局面は、米側が痛みに耐えられないという結果につながったが、30%関税であれば、米側の痛みはかなり減殺される。
小口貨物への免税措置廃止の継続により、SHEINやTemuなどの越境EC企業を通じて米国に製品を販売する企業の倒産やそれに伴う失業が広がる可能性も大きい。中国政府がいくら明るい経済ニュースを流し続けても、実体経済との乖離が大きくなれば、国民は誰もこれを信じなくなり、逆に真実を隠す政府への不満と経済に関する不安が高まることになるだろう。