愛用機ムスタングの前に立つ西久保慎一。もともと自身の所有機だった(写真:馬場岳人)
愛用機ムスタングの前に立つ西久保慎一。もともと自身の所有機だった(写真:馬場岳人)
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 マイクロジェット会長、西久保慎一。はるかに強力なライバルに対して、まるでドン・キホーテのように徒手空拳で挑んだあの男が、失意の後、再び空の世界に帰ってきた。次に狙うのは、大金持ちや企業相手のビジネスジェットの世界。そこに明朗会計を武器に価格破壊をもたらそうとしている。

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 高橋良(30)は航空大学校を卒業して間もない2021年10月、ツイッター(現X)で見つけた「ニック・ブルー」というアカウントの主に「ぜひとも会わなければならない」と思った。

 ニック・ブルーのプロフィール欄には「起業から上場、破綻まで一通り経験しました。いまは畑を耕しています」とあり、小型飛行機を操縦している彼の写真が載っていた。「これは魅力的なおじさんだな」。高橋はパイロットで、しかも「起業したい」と思っていた。ニック・ブルーはぜひとも話を聞いてみたい謎の人物だった。

 高橋は航空大を21年6月に卒業したものの、おりからのコロナ禍の採用抑制が響き、日本航空(JAL)や全日本空輸(ANA)のパイロットの採用試験にひっかからなかった。例年100%近い航空大卒の採用率がこの年次は80%。同期27人のうち友人の鬼澤健斗(29)ら5人があぶれてしまった。だが悲嘆しても始まらない。鬼澤と「俺たち2人で航空会社を作れないか」と話すうち思い出したのが、就職活動中に偶然見つけた先述の「謎のおじさん」のツイッターだった。

 さっそく「自分たちも航空会社をやりたいんです。ぜひ話を聞かせて欲しい」とメッセージを送ると、「いつでもどうぞ」と返信があった。

「明日行っていいですか?」

「どうぞ。僕は航空事業を多少知っていますよ」

 いまは山梨県の清里在住という。

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