東京の猛暑脱出のため、買い求めた清里の別荘が自身の一人暮らしの住まいになった。人気の別荘地も今やゴーストタウン化し、西久保が購入した頃は1坪2万~3万円の安さだった(写真:馬場岳人)
東京の猛暑脱出のため、買い求めた清里の別荘が自身の一人暮らしの住まいになった。人気の別荘地も今やゴーストタウン化し、西久保が購入した頃は1坪2万~3万円の安さだった(写真:馬場岳人)

 高橋と鬼澤は21年10月18日、清里駅に降り立った。待ち合わせたニック・ブルーは「西久保慎一(にしくぼしんいち)です」と名乗った。規制緩和により新規参入し、JAL、ANAに次ぐ航空会社として頭角を現したスカイマークの元社長だった。15年に民事再生手続きを申請して経営破綻後、隠棲先の清里で晴耕雨読の日々を送っているらしかった。

ビジネスジェット起業着想 「あの人、怖いですよね?」

 2人は白樺の木立を抜け、まだ新しい別荘風の平屋の住宅に案内された。西久保が尋ねる。

「ところでいま、どんなことをしているの?」

「サイトを作って花の通信販売をしています」

「そこから航空事業をやるのは距離がありすぎだ。いったい何本の花を売るつもりなんだい」

 高橋と鬼澤はそう切り返され、「感じの悪い人だな」と受け止めた。西久保はたまたま9月、セスナ社のC510(ムスタング)を購入したばかりだった。「いまからならばビジネスジェットが良いよ。買ったばかりの僕の飛行機があるから乗ってみるかい」。そう伝えると、2人は目を輝かせた。この日、3人は新しい航空会社をやろうと意気投合。何度か打ち合わせを重ね、その年の11月末に西久保はこう宣告した。「分かった。俺の飛行機と5千万円を君たちに貸そう」と。

 若いパイロットの訪問に目を輝かせたのは、むしろ西久保だった。(文中敬称略)

(文・大鹿靖明)

※記事の続きはAERA 2025年5月19日号でご覧いただけます

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