ところが長年にわたって染みついた金銭感覚は、なかなか変えられるものではなく、ついつい出費がかさんでしまう。再雇用で給料がぐっと減った60歳の時点で、「暮らしも出費もダウンサイジングしよう」と妻と話したのだが、結局は65歳で退職した後も、節約意識のないまま生活を送ってしまった。便利な場所に住み替えたことで、外食率もぐっとアップし、ちょこちょこ買い物する頻度も上がった。2歳年下の妻は、65歳から年金を受け取り始めたが、ジム通いに習い事にと、出費のかさむ生活を送っているため、生活の足しというよりは娯楽の足しに年金を使っている感覚だ。加えて、子どもから結婚資金や新居費用、孫の教育費用と支援を求められると、つい援助してしまう。
70歳を超えてローンが残っている
特筆すべきが、70歳の時点で、マンションのローンがまだ2千万円強残っていること。ローン返済も計算しての老後資金だったはずだが、70歳まで年金を繰り下げたことで、手元にある貯金を随分取り崩してしまった。「4割増の年金を受け取り始めたら挽回できる」と踏んでいたものの、70歳を迎える直前、今後の老後資金とローン返済を不安に思い、ファイナンシャルプランナーを訪ねた。すると「手元の預貯金を取り崩し過ぎている。家計のバランスを見ると、65歳から年金を受け取るべきだった」と言われて深く落ち込んだ。前出の有田さんは言う。
「80歳まで住宅ローンが組める今の時代、70歳を超えてローンが残っている人は珍しくありません。中には収入がかなり高くても、60代で3千万〜4千万円ぐらいローンが残っている人もいます。退職金で繰り上げ返済すればいいと考える人も少なくないですが、退職後に手元にあるお金を減らすのはリスクが高い。繰り上げ返済するにしても、その後の老後資金の計算をしてからが鉄則です。そうした点をあまり鑑みず、年金受給を繰り下げしたほうがお得というイメージから、繰り下げを考えてしまう人がいる。65歳以降は働かず、預貯金の取り崩しで生活する期間が5年ともなれば、70歳までにかなりまとまった額が出ていくことになり、危険です」