「これらを踏まえると、繰り下げをして良い人の条件は、①繰り下げ年齢まで生活に困らない収入が見込める、②加給年金の対象になる配偶者や子どもがいない、③繰り下げ年齢までに万が一のことがあって、年金がほとんどもらえなくなったとしても、それはそれでしょうがないと割り切れるという3つのポイントが当てはまる人ということになります」(浦上さん)

 以上のことを踏まえて、浦上さんが勧めるのが、年金は繰り上げも繰り下げもせず、素直に65歳からもらうことだ。浦上さん自身も、65歳で三菱重工グループを退職後は給与収入がなくなり、規定通り65歳から年金を受給している。定年後は、個人事業主として独立したが、「年金が安定的なベース収入になり助かった」と話す。

年金=長生きのリスクに備えるもの

「寿命という不確定要素がある限り、“何歳からもらうと最も多い年金がもらえるか”についての正確なシミュレーションは不可能です。そもそも、年金は高齢になってからの保険の意味合いが強いもので、損得で考えるものではありません。繰り上げにも繰り下げにも一定のリスクがあることを踏まえたら、65歳から受け取って、余裕があるならそれを貯金しておけばいい。65歳以降に収入が減る人は、もらっておいたほうが安全というのは、極めて常識的なアドバイスだと思います」

 “年金=損得で考えるものではない”というのは、有田さんも同意見だ。有田さんいわく、年金=長生きのリスクに備えるもの。相談者のシミュレーションは、90歳まで生きた場合を想定することが多く、100歳まで生きた場合を想定してほしいという人もいるという。

「年金は、何歳まで生きるかは誰にもわからないからこそ、長く生きても生活に困らないための保険という意味で考えるべきです」(有田さん)

 なるべく健康を維持して長く働くのが一つの解決策となる。政府やメディアから老後不安を煽られる時代だからこそ、目的を見誤らないよう、地に足のついた“戦略”を維持したい。

(フリーランス記者・松岡かすみ)

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