――壷井達也選手(21位)は、ショートの前日に全く眠れなかったという報道もありました。初出場の世界選手権が五輪の出場枠がかかった大会という状況は、かなり難しいものだったのかなと思いますが
壷井くんが今どんな気持ちなのか直接聞いた訳ではないので、どんな言葉をかけるのがいいか想像でしかないですけれども……でも、このハイレベルな日本男子の中で3番目に選ばれた実力は、全員がこの1年の全力を出し切って選ばれた結果なので、そこは本当に誇りに思ってほしいなと。もちろん今回の順位や内容は、自分の求めたものにはとどかなかったかもしれません。ただ日本で3人目に選ばれるって、すごく難しいことです。壷井くんの考え方によっては「3人目として出ているから、もっといい演技をしたかった」と思っているかもしれませんが、選ばれたのが彼の実力なので。
結果がどれだけ良くても悪くても、もちろん(日本の)枠にはつながりますけれども、最後は自分のためになるかというところだと思うので、今回の経験を上手く次に生かしてほしいなと思います。壷井くんの言葉を聞いた訳ではないですけれども、彼がフリーで予定していた2本目の4回転サルコウをトリプルにした姿を見て、この大会期間中は緊張や不安がたくさんあったと察しています。「いい経験ができた」と自分の中で落とし込めるマインドコントロールを、してくれているといいなと思います。
――連覇を果たしたイリア・マリニン選手は、フリーで全6種類の4回転を着氷しました。表現面でも独特の世界を築きつつあるように思いますが、どのように見ていましたか
マリニンくんのジャンプ技術があれば、別に表現力なんて気にしなくても、世界のトップになれます。でも彼は、ジャンプ技術はもちろんのことながら、自分に足りないと思っているものをどんどん磨いていこうとする姿勢をみせていて、本当に毎年良くなっています。マリニンくんはジャンプ技術が自分の強みと分かっていながらも、点数になるか分からない部分も頑張ってくれている。マリニンくんのその姿勢は、競技をやっていた身としてもすごく嬉しいですね。
僕はその逆で、とりあえず競技をやるからには点数がつくものだけをひたすら磨き上げ続けるという考え方だったので。やっぱりルール上、今はジャンプを頑張ることが最適解であるのは間違いない。その中でもマリニンくんが「フィギュアスケートとしての良さ」についても頑張ってくれているのは、今後のフィギュアスケートのためと言ったら大げさですけど、すごくいいことだと僕は思うので、感謝しています。