――銅メダルを獲得した鍵山優真選手は、2位発進したショートでは優勝したイリア・マリニン選手(アメリカ)に肉薄しましたが、フリーでは力を出し切れませんでした。日本男子は羽生結弦さん、宇野昌磨さんと優れたエースが引っ張ってきた歴史がありますので、次のエースとなった鍵山選手が背負うものは大きいと思いますが、宇野さんはどのように見ていましたか
体の状態がいい時にあそこまで崩れる彼の演技は、初めて見ました。気持ち的にも、すごく大変な部分もあったんじゃないかな。ただ彼にとっては、今失敗できて良かったんじゃないかなと思いますね。もちろん失敗と言っても3位になっていますし、それは彼の実力あってこその結果ですが。
もちろん、次の(2026年ミラノ・コルティナ)オリンピックは(イリア・)マリニンくんがいるので、すごく難しい戦いになるでしょう。優真くんはオリンピックに出場すると思いますし、その上で結果もより高いものを目指しているとは思います(鍵山は2022年北京五輪で銀メダルを獲得)。その上で、この失敗という経験を一度できるかできないかは大きい。
優真くんは、シニアに上がってからずっと世界のトップで戦っています。僕も割と早かったですけれども、僕よりもさらに早い段階で世界のトップに上がって、ずっと戦い続けていますよね。ゆづくん(羽生結弦さん)、ネイサン(・チェンさん)、僕、マリニンと戦った経験をしている彼の競技歴は、とても長く見えます。
優真くんの技術が毎年向上しているのは、自分の理想が明確に設定されていて、それに向かって練習していくのがすごく上手だからだと思います。僕は「やりたい」って思ったらめちゃめちゃ練習しますが、「やりたくない」って思ったら見かけだけの練習をするタイプなので、すごく成長する年もあれば、現状維持の年もあった。でも彼はちゃんと着実に上がっていっているところが、僕にないすごいところだなと思っています。
でもずっと上がっていくより、一回失敗を経験するのも、より上に上がるための材料にもなりやすいと思うので。彼はここから、がむしゃらではなくちゃんと計画的に、また冷静に頑張ると思うので、彼の能力なら大丈夫だと考えています。