
藤原さんは言う。
「ゆっくりだからこそ、細かい動きまで丁寧に、指先まで綺麗に伸ばさないといけません。女子は特に浴衣なので、考えて動かなければいけなかったり、難しかったです」
昨年12月から保存会の指導を受け、サークル内でもみんなで練習をした。
「それでも覚えられなくて、自宅の鏡の前で練習しました(笑)」
こうして迎えた本番。全てを出し切ったと藤原さんは言う。
「今までで一番上手に踊れたと思います」
踊り終わった学生たちは皆、「一生の思い出になった」と声を揃えた。みんけんの潘同悠(はんともひさ)さん(2年)は、「心の繋がりを感じられました」と笑顔で話す。
「僕たちが普段サークルでやっている太鼓は、アイコンタクトを取ったりしながら互いの動きを見て合わせることが多いです。けれど、おわらは編み笠を被っているので視界が狭く、視線の向きもある程度決まっているので、踊っていると孤独に近い部分があります。そうした中、周りの手を叩く音や足音や、たまに視界に入る影を見るだけで、みんなで一緒にやっているんだという一体感を感じました」
「ブラボー!」の声も
今年のわっかフェスは、昨年元日に起きた能登半島地震と、同9月に能登北部を襲った豪雨で被災した石川県を応援する目的もある。
伝統芸能のラストを飾ったのが、「御陣乗太鼓」だ。石川県輪島市名舟町(なふねまち)に伝わる伝統芸能で、400年以上の歴史がある。鬼などの面を着けた打ち手が威嚇するようにばちを高く振り上げ、激しく太鼓をたたく姿に、一段と大きな拍手が湧いた。会場からは「ブラボー!」の声が飛んだ。演じた槌谷(つちや)博之さん(58)は言う。
「パフォーマンスとして良かったというのもあったかもしれませんが、それ以上に今の能登半島を応援してくれる拍手に聞こえました」
(編集部・野村昌二)
※AERA 2025年4月21日号より抜粋