
「アイロニカルな没入」は個人と全体で異なって見えてくる
片山 そうすると、トランプ現象も「アイロニカルな没入」で説明できそうですね。
大澤 おっしゃるとおりです。トランプ大統領の言っていることは大半馬鹿なことです。だから反トランプのリベラルな人たちは、トランプを支持しているのは基本的に馬鹿な人たちだと思いがちです。しかし、そうじゃないから大統領に選ばれている。オウム真理教に極めて合理的な人たちでもハマったのと同じように、極めて合理的な人でもトランプに惹かれ、自分は陰謀論を文字通り信じていないつもりでも、陰謀論を支持している場合と同じように行動することがある。
人間はアイロニーの意識を持っていても没入してしまう。そうであれば、個別に聞くと誰一人信じていないことでも、全体としては信じているのと同じ行動を取るという現象が起こりえるのです。これは国家の指導的立場の人であっても一般の国民であっても同じです。つまり、戦前の日本のファシズムに通じる現象なんですね。
片山 「天皇陛下、万歳」と言って死んだのも「アイロニカルな没入」ということになるのでしょうか。
大澤 まさに本末転倒ですよね。国民を統合するために天皇を呼び出したのに、最後は天皇が生きていれば国民がみんな死んでもいいとなったわけですから。先日、ある大学で招かれたゼミで、そこの学生たちと天皇制ファシズムの話になったら、彼らは「私たちにはありえない」と言っていました。しかし、そうした冷めた認識をもっていても人間は没入することがある、というところを知っておかないといけません。それが、現在、世界をおおいつつある、ある種のファシズム的な状況の行方を知る一つの鍵になるかもしれません。それを知った上で、では日本はどうするか、それを考えることです。
片山 歴史と思想の流れを知ること、社会学で社会や人間の不合理なあり方も理解すること、その両方が大事ですね。
(構成/高橋和彦)