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 こころとからだの関係は一方通行ではなく、相互に影響し合って、負のスパイラルを起こすこともあります。30年超にわたり漢方診療をおこなう元慶應義塾大学教授・修琴堂大塚医院院長の渡辺賢治医師は、「どちらか一方の表面的な症状だけを診て治療をしても、うまくいきません」と話します。
 メンタル不調に対して漢方という選択肢もあるということを、より多くの人に知ってもらいたいと、渡辺医師は著書『メンタル漢方 体にやさしい心の治し方』(朝日新聞出版)を発刊しました。同書から抜粋してお届けします。

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 漢方の基本的な考え方の一つに、「心身一如(しんしんいちにょ)」という言葉があります。こころとからだは一体であるという意味で、由来ははっきりしていませんが、一つは平安時代末期から鎌倉時代初期の禅僧である栄西の言葉とされていて、『興禅護国論』(1198年。原本は現存していないが1778年の校訂本が一般に流布)に、「心身一如動静(どうじょう)間(へだて)なく」とあります。

 もう一つは鎌倉時代初期の禅僧、道元禅師の『正法眼蔵』(1231年)に、「仏法にはもとより身心一如にして、性相不二(しょうそうふに)と談ずる」「身心一如の旨は仏法のつねの談ずるところなり」とあります。仏教では「身心一如」と「身」が先ですが、漢方では「心身一如」と「心」を先に書きます。

 よく、西洋ではこころとからだは二元論で語られることが多いですが、これはデカルトの『省察』(1641年)に基づいています。それに対し、東洋ではこころとからだは一つとする考え方を踏襲してきました。西洋医学でも精神科は独立した科ですが、最近では心療内科など、こころとからだをつなげて考える診療科も出てきています。漢方ではこころもからだもすべて診る、という立場で、江戸時代の診療録が残っています。

心身一如を見抜いて治療

 漢方では、心身一如をもとに、こころの不調がからだの病気を引き起こすこともあれば、からだの不調がこころの病気を引き起こすこともあると考えます。こころの不調が引き起こすからだの病気といえば、心身症やパニック障害などがあります。からだの不調が引き起こすこころの病気には、過敏性腸症候群(IBS)からの不安神経症、不整脈からの不安などがあります。
 

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