
新幹線の座席と座席を分かつ1本のひじ掛け。知らない他人と隣り合ったときに使うべきか、使わぬべきか――。この葛藤が話題になるたびに「譲り合いましょう」という声が上がるが、そう単純ではないから、この悩みは解決しない。社会心理学の専門家に聞いてみると、日本人の縄張り意識の変化も関係しているようだ。
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「ひじ掛けは自分の物だぞという感じ。隣に座ったおじさんは、王様みたいでした」
都内の営業職の会社員女性(32)は1月、仙台-東京間の東北新幹線に乗ったときに、隣に座った60代くらいの男性との「ひじ合戦」が忘れられない。
友人に会いに仙台に行った帰りの日曜日午後。2席並びの窓側E席(指定席)に座っていると、後から左隣の席に男性が乗り込んだ。男性はおもむろに団子をほおばり、読書をすると、ほどなくひじ掛けに右腕を据えた。自分と男性の座席の間にあるひじ掛けだ。
気づけば男性の右腕は、ひじ掛け幅の半分を超えてきた。自分の“陣地”が侵入された様子を、女性は時折目の端で確認するしかなかった。
「腕がひじ掛けから完全にはみ出して、私の席まできたんですよ。腕だけでなく足も大股で開いて開放して、足元もはみ出していました」
触れ合わないように、窓にもたれかかって体をすぼめた。「新幹線を自分の会社か家のソファだと勘違いしていたんじゃないでしょうか」。一方的な負け戦を脳裏に浮かべ、女性は唇をかんだ。
これまで新幹線のひじ掛けをめぐって、ネット上でさまざまな使い方が議論されてきた。
「ひじ掛けはそもそも仕切りであり、隣の人がいるときは使うべきではない」「誰も使わないのはもったいない。早い者勝ちにしたらどうか」
隣の人がいるときに、一律にひじ掛けを使わないようにすればトラブルは起きないかもしれない。しかし、3人掛けの真ん中席で、ひじ掛けを一切に使わず長時間乗るのは、逆に体が疲れそうだ。
「ひじ掛け問題」は以前から話題になっていたが、よく見る解決策は「譲り合いましょう」だった。
だが、いまも議論は平行線をたどっていないか。「譲り合いましょう」だけでは、モヤモヤが晴れない。