瓶入り牛乳のおいしさは格別だ。だが、大手乳業メーカーの撤退が相次いでいる=米倉昭仁撮影

科学が証明した「瓶入り」のおいしさ

「瓶入り牛乳」の販売終了が相次ぐ背景には、いくつかの理由があるという。

 最大の課題は「供給コスト」だ。瓶は洗えば繰り返し使えるが、洗浄や殺菌に費用がかかる。重さから運送費もかさむ。

「大手乳業メーカーは、『食のインフラ』を支えるという使命感から、瓶入り牛乳の供給コストを価格に転嫁しづらかったのでは」と語るのは、三重県伊勢市の山村乳業の山村卓也さんだ。

 山村乳業は1919(大正8)年の創業以来、「おいしい牛乳には瓶が欠かせない」というこだわりを持ってきた。現在、日本最多の14品目47種類の瓶入り乳製品を製造する(自社調べ)。

「うちは瓶入り牛乳に命をかけています」(山村さん)


 大手乳業メーカーでは、生乳を120~130度で2~3秒間加熱して殺菌する「超高温瞬間殺菌」が一般的だ。

「短時間で大量の牛乳を製造でき、コストダウンにつながりますが、高温加熱により『牛乳独特のにおい』が生まれてしまう面もあります」(同)

 山村乳業は85度の低温で15分間かくはんしながら殺菌する「パスチャライズ殺菌」を採用している。

「手間とコストはかかりますが、たんぱく質や乳脂肪が熱変性することが少なく、牛乳本来の風味を味わうことができます」(同)

 その牛乳本来の味をさらに引き立てるのが「瓶」だという。

 明治食品開発研究所と金沢工業大学の研究によると、瓶入り牛乳は、牛乳とふたの間の空間「ヘッドスペース」に香りが凝縮し、ふたを開けた瞬間に濃厚な香りが広がる。コップよりも瓶で牛乳を飲むほうが、香りは約3倍強い。瓶の飲み口がくちびるに接触する面積はコップの1.4倍あり、心地よいひんやり感を生み出す。そのため、瓶で飲む牛乳はおいしく感じられるという。


 前出の小杉湯の平松さんは、昨年4月、東京・原宿の商業施設「ハラカド」の地下1階に「小杉湯原宿」をオープンした。そこで提供しているのが山村乳業の瓶入り牛乳だ。1本300円。

「牛乳に詳しい知人から、『瓶入り牛乳なら山村乳業』と教えられた。飲んでみておいしさに驚いた」(平松さん)

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