
そんな中、新政酒造を始めとした酒蔵がフルーティーだけでなく、甘みの輪郭をつくる酸を感じる日本酒を造り始めた。
「それまで日本酒は酸はNGとされてきましたが、酸の出現が大きな出来事です」
日本酒を飲む外国人はワインも飲む人が多い。ワインを飲む外国人に酸を感じる日本酒が大いに受け入れられたのが人気の理由の一つであると千葉さんは説明してくれた。さらに続ける。
「日本酒はアミノ酸がワインより豊富です。そうするとワインとは合わない料理も、アミノ酸が多い日本酒とは合わせることができるようになります。チーズがワインに合うとされているのは、ワインのタンニンがチーズを洗い流すことになるからですが、日本酒の場合は日本酒のアミノ酸に料理のアミノ酸を重ねてよりおいしくなるのです。つまり、日本酒は料理のうまみを倍増させ、快楽が満たされるのです」と千葉さんは力説した。
日本酒人気の伝道師
実は千葉さん自身も日本酒の伝道師として世界を巡ったり、『日本酒に恋して』という著書を出版したり、さらに映画「カンパイ!日本酒に恋した女たち」に出演。ワインでいう「マリアージュ」を日本酒では「ペアリング」という言葉に置き換えて広めるなど大きな役割を果たしている。かつては“ワインのような日本酒”などと言われたが、日本酒は独自の道をしっかり進んでいるとも千葉さんは言う。
そんな千葉さんがおすすめするのは、「新政」「仙禽(せんきん)」「風の森」だ。いずれも蔵ならではの酸の表現を感じ、快楽が得られます、とにっこり笑った。
「ある外国人が“日本が遥か昔から、米と麹だけでこんなにフルーティーで豊かなお酒を造っていたなんて奇跡だ”と驚いていました」
千葉さんが営む酒場は「EUREKA!」という名だ。この言葉はアルキメデスが発見をした時に叫んだ言葉ともされる。
千葉さんはこう力強く話した。
「世界中の人に日本酒の素晴らしさをもっと発見!してほしいです!」
(ライター・鮎川哲也)
※AERA 2025年3月31日号より抜粋