表現力を高め、新たな視点を生み出すツール

 また、村瀬さんいわく、タロットで占う行為は声優としての本業である「演じる」ということにも近いものがあると言う。

「タロットはお芝居とも似ているとも思っています。演劇用語に〈ミザンス〉という言葉があるんです。役者は板の上に立ちながら、“今、自分がどう見えているか”を俯瞰する視点を持っているんですね。それを〈ミザンス〉と言ったりします。実際の自分と、声帯を使って演じようとしている役の自分、そして全体を演出家として見る自分、その三者でやっている感覚があるんですけど、タロットも似た感じがあるんです。占っている最中は、自分に加えて、カードを通じて占っている自分、そしてそれを引いたところから見ている、もうひとりの自分がいるような……」

「演じる」ということは、その役柄に没入しながらも、演じる自分をどこかで客観視することでもある。こうした構図はタロットで「占う」という行為も同様なのかもしれない。1枚のカードを介して、占い手と占われ手のエネルギーの受け渡しがうまくいくと、それは「当たる=感動する」リーディングになるのだろう。村瀬さんのタロットが多くの人を魅了する理由は、この俯瞰する視点〈ミザンス〉を備えているからにちがいない。

 そしてこのような俯瞰する行為は、日常的に誰もがやっていることかもしれない。

 たとえば日常における何気ないコミュニケーションでもそうだ。ある問題に対して、自分を第三者の視点で客観的にどう見られているかを意識しつつ、相手の受け取りやすいような形にして言葉を選ぶ。そんなコミュニケーションの取り方を自然と体得させてくれる力がタロットにはある。タロットリーディングに親しむことは、こうした心の働きを意識化していく作業と言えるだろう。

 タロットがただの「占い用カード」からジャンルを広げている理由は、村瀬さんのような新たなリーダーが増えていること、そして私たちに新たなコミュニケーションを与えてくれるからなのだろう。近年のタロットブームには、こうした背景もあるのかもしれない。

 取材・執筆:山田奈緒子(マイカレ)

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