
「百獣の王」・俳優、武井壮。「百獣の王」として芸能界に乗り込んだのは、39歳と遅咲きだった。芸人らが深夜に集うバーに通い詰め、お笑いの話術を学んで磨き上げた芸が爆発的にウケた。陸上の十種競技で日本王者の経歴を持つアスリートでもある。テレビの人気者は50代に入り、世界に羽ばたく俳優の道を歩み始めている。演技へのこだわりを、源流からたどる。
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2月下旬、東京・西麻布の交差点で、この欄の撮影をしていたら、犬を連れて散歩していた有名女優から声をかけられる一幕があった。
「芸能界の有名な人に、あいさつしてもらえる人間になったんだなあ」
撮影の合間に、武井壮(たけいそう・51)はつぶやいた。感慨深げなニュアンスを込めて。
テレビをよく見る人なら、知らない人はいないだろう。ただ、この13年余り活躍してきたジャンルの広さを踏まえると、肩書を「タレント」でくくるのは雑に思える。「百獣の王」として世に出たのは39歳と遅咲きだ。陸上の十種競技の日本王者の経歴を持ち、自身の冠番組を含め、番組のMCをいくつも務める。情報番組のコメンテーターとしても、放送局をまたいで重用される。
そんな武井が50代に入って力を入れているのが、いわゆる俳優だ。
昨年暮れ、武井は東京・池袋の映画館で舞台に上がっていた。タイ制作の壮大なSFファンタジー映画「URANUS2324」に日本軍将校の役で出演し、その日本公開だった。
武井にあいさつの順番が回ってきた。
「20代のころから、40代はタレント、50歳から先はドラマや映画の映像作品をやると決めていました」

さらに「気づいてない方も多いかもしれないですけど……」と前置きしつつ、この10年間、芝居にも取り組んできたと明かした。NHKの朝の連続テレビ小説や大河ドラマなど、多くの作品で場数を踏んでいる。
あいさつの最後は、抱負で締めた。
「ここからの10年はあらゆる国の、あらゆる作品に顔を出してがんばっていきたいと思います」
さりげない、世界進出宣言だった。
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タイで武井に協力したのは、バンコクで撮影コーディネートなどを手がけるEMUの代表取締役、中島美紀代だ。
「これまでも、日本の有名芸能人の方からタイ進出の打診を受けたことがありましたが、渡航費もホテル代も自腹で、すぐに飛んできたのは武井さんだけ。だから、こちらも同じ熱量で向き合わなきゃと覚悟が決まりました」