「常識」を覆すプロジェクト

 ヨーグルトは、牛乳に乳酸菌を混ぜて発酵させるシンプルな製法だ。確認されているだけで500種類以上あるという乳酸菌の組み合わせで、ヨーグルトの特徴は変化する。

 明治の研究所では乳酸菌に関する基礎研究や応用研究を行っており、その研究に携わるメンバーが中心となり、明治ブルガリアヨーグルトは発売以来、さまざまな製法を見直してきた。

 たとえば1993年には乳酸菌を“LB81”にリニューアル。LB81乳酸菌を使った同商品は3年後の1996年、厚生省(当時)より「特定保健用食品」(トクホ)の表示許可を得た。(ちなみにトクホ市場が伸長して各社が注目するようになったのは2000年代前半から)

 ただトクホ取得により、明治ブルガリアヨーグルトでは使用する乳酸菌をLB81から変えることができなくなった。

 当時の常識では、乳酸菌を変えない限り味や食感を変えられないとされていた。ただ、時代とともに好まれる食感や味わい、また健康意識は変わる。それをわかっていた研究チームは、菌の変更以外で時代にあった味わいをつくるという、これまでの常識を覆す研究を始めたという。

 通常、ヨーグルトは40度以上の温度で発酵させる。しかし、ブルガリアの伝統的なヨーグルトは、より低い温度で発酵させることで独特のなめらかさがでることが知られていた。

 この低温発酵ができないか。何度も取り組んだものの、発酵の遅さで生産効率が悪く実現しなかった。

答えは「おいしくて健康だから」

 ブレイクスルーとなったのは、自社の人気商品「明治おいしい牛乳」から着想を得たアイデアだった。明治が生み出した脱酸素した牛乳を使って低温発酵させるという技術は「まろやか丹念発酵」と名付けられ、なめらかな食感かつまろやかな風味のヨーグルトが誕生した。この技術は、「明治ブルガリアヨーグルト」以外にも明治の商品に活用されていくことに。

 23年3月には、この技術と後に開発された「くちどけ芳醇発酵」の2つの技術を活用し、「明治ブルガリアヨーグルト」をリニューアル。「酸味がまろやかになり、ヘビーユーザーの方からも好評」(淡路氏)という。

 なぜ明治ブルガリアヨーグルトは長きにわたって支持されているのか。淡路氏は、「伝統のブランドという安心感、そして『おいしくて健康だから』ではないでしょうか。おいしさも健康もどちらかが欠けてもいけない。このふたつを追求してきた自負があります」

 商品パッケージには「ヨーグルトの正統」とある。伝統の維持には研究者のたゆまぬ努力があったのだ。

次のページ