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AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
「どうやら僕は、恐ろしい芸能界の荒波の只中をふわりふわりと機嫌よく漂っているように見えるらしい──」。国民的エンターテイナー・堺正章さんが初めて記す自伝的エッセイ。16歳でザ・スパイダースに加入した日々、「時間ですよ」や「西遊記」の撮影秘話、父・堺駿二や娘・堺小春への思い──芸能界での六十数年を振り返りながら、後輩たちへバトンとエールを送る書『最高の二番手 僕がずっと大切にしてきたこと』。堺さんに同書にかける思いを聞いた。
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「はい、どーも、こんにちは」
ネッカチーフにツイードジャケット。トレードマークのトラッドスタイルでにっこり迎えてくれた堺正章さん(78)に、編集者と思わず「本物だ!」と声をあげてしまった。
歌手、俳優、司会者として活躍する国民的エンターテイナーが上梓した初の自伝的エッセイ集『最高の二番手 僕がずっと大切にしてきたこと』。「自分の過去や胸中を明かすのは好きではなかった」というがいったいなぜ、いま?
「六十数年この世界にいて、まさかこんな時代になるとは思いもしなかったですよ。コロナ禍がありSNSの時代になり、コンプライアンスも厳しくなった。でも僕は幸せなことに、ひとつの場所でここまでやってこられた。自分の実体験を書くことで恩返しというか、みなさんのなんらかの参考になればと思ったんです」
自分自身や芸能界を客観的に分析する視線に驚かされる。挫折経験や3度の結婚なども正直に綴り、娘・堺小春や後輩たちへの思いに溢れている。植木等、ムッシュかまやつ、樹木希林など尊敬する人々との出会いや彼らの言葉も響く。
「僕自身、素敵な方々との出会いやアドバイスで成り立っている。彼らに聞かせてもらったからには自分もそれに報いなければと。先週もある俳優さんの悩みをちょっと聞いてあげたんです。食事代は私が払いましたけど。『払えよぉお前が!』って。あはは(笑)」