『最高の二番手 僕がずっと大切にしてきたこと』(1650円〈税込み〉/飛鳥新社)「どうやら僕は、恐ろしい芸能界の荒波の只中をふわりふわりと機嫌よく漂っているように見えるらしい──」。国民的エンターテイナーが初めて記す自伝的エッセイ。16歳でザ・スパイダースに加入した日々、「時間ですよ」や「西遊記」の撮影秘話、父・堺駿二や娘・堺小春への思い──芸能界での六十数年を振り返りながら、後輩たちへバトンとエールを送る書

 軽やかにして品があり、人を不快にさせない堺さんのスタンスはいまの時代を見越していたかに思える。1994年から出演し、22年間続いた長寿番組「チューボーですよ!」が転機になった。

「バラエティーには相手をけなして作るのと褒めて作るのと両方あるんです。僕は最初のころは前者だったけど、次第に『僕はそのタイプじゃないかも』と思い始めた。褒めて安心してもらったところで普段見せない笑顔を見せてくれたらすごくいいなと。それでも言うべきかの瞬時の判断を誤って、相手を傷つけてしまったこともある。そのつど反省をしながら成長してきたんじゃないかと思います」

 YouTubeやSNSが席巻する時代、エンターテインメントの変化を感じている。

「芸能は本来『芸』を売るもの。でもいまの若い人たちは自分という『人間』を売っている気がするんです。だからたまたまうまくいっても後が続かない。長くこの世界にいたいと願うなら、自分の芸を磨くことが大変に大事で基本的な要素なんですけどね」

 ザ・スパイダースのバンド時代から「時間ですよ」で役者の道へ、そしてバラエティーへ。常に自らの「芸」を磨き、時代と歩んできた先達の言葉には説得力がある。

「僕だって一番が好きなんですよ。だけど二番手でいる限り、まだ上を望めるエネルギーが出ますからね。いまやりたいのはやっぱり歌。ぐるっとまわって、ここが居場所になればなと思っています」

(フリーランス記者・中村千晶)

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