TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は「志の輔らくご in PARCO」について。

「志の輔らくご in PARCO 2025」(撮影/中嶌英雄)
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 先日ロンドンから一時帰国の友人に会った。向こうで家族と暮らす彼女は東京で一人暮らしの父が気になって、年に数度帰京する。

 正月はどうしていたという話から立川志の輔の「志の輔らくご in PARCO」の話題になった。演目の一つ「みどりの窓口」に彼女は身を乗り出した。東京駅「みどりの窓口」駅員の物語である。

 割り込みをしっかり見てなくちゃダメじゃないと人懐っこい女性客に話しかけられたかと思うと、指定席が売り切れだと知るや国会議員の分をよこせと息巻く親父が現れ、特急券がここにないなら有楽町駅に行くだとか、切符がないというならその箱(コンピューター)を開けろという始末。宮崎に向かうという老夫婦は、途中で孫も拾いたいから福井に寄りたい、あ、そうだ、娘夫婦も一緒に連れていきたいから長野にも、と無理難題を次から次へと告げる。東京から福井、長野、また東京に戻って小倉、宮崎へ。駅員は客のために少しでも行き易いルートを見つけて発券する。それは鮮やかなプロの技。機械などに頼らない。師匠の噺に耳を澄ませばそれだけで日本列島を周遊している気分になった。

「みどりの窓口」が減りつつあるとの枕だったが、以前は窓口で切符を買うために駅員と客のやりとりがあり、師匠の高座のようにそこから生まれる物語も少なからず生まれたはずだ。

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「お手色」という言葉