例えば、結婚式などのイベントで使われる「バルーンアート」を手掛ける会社のマーケティングを副業で担った社員から、業態やサービスの肝をフィードバックしてもらうことで取引先企業との議論を深めることができたり、他社の人事やキャリアのコンサルティング経験が自社に応用できたりしたこともあります。社員が副業から得た「小ネタ」が、本業のビジネスにつながるケースはいくつもあります。そういう意味では社員個人の意識醸成(キャリア自律)はもちろん、お金をかけない人材育成の手段にもなり得ます。こうした会社の風土の認知が広まることで採用力アップの効果もあります。この14年間増収を続けてこられているのも副業の成果の一つだと捉えています。

 コロナ禍の経験も踏まえて、いま強く感じるのはピアエフェクト(身近な人の影響)を促す施策の必要性です。私たちが取り組んできたのは、副業に限らず新たなチャレンジに二の足を踏んでいる社員も仲間の雰囲気に触発されて外に目を向けるようにする環境づくりです。また日常の中でT(タイム)、P(プレイス)、O(オーガニゼーション)を取っ払うために、「フルフレックスタイム制」や「リモート制」、「業務時間中に副業をするのも自由」といったスタイルを貫き、創業時から「生きるを、デザイン。」を掲げ個人が働き方をデザインすることを応援してきました。

 副業のメリットのひとつは「キャリアオーナーシップ」を育むことにあると考えています。働き手個人が自分のキャリアをどうデザインしていくか。もっといえば、自分の人生をどう主体的にコントロールしていくか。そして副業によって個人にもたらされるのは「変化対応力」です。これは不確実性が高く、将来の予測が困難な時代を乗り切るために不可欠なスキルです。さらに言うと、副業を勧めるのは、自身で「商い」をしてほしいと考えるからです。サラリーマンでは決して持ちえない経営者感覚が身に付くと、社会の変化により敏感になり担力も磨かれます。そうなると社員一人ひとりが成長し、会社にとってもプラスになります。もちろん、会社に参画していますから、ビジョンや経営戦略に沿った、社員としての責務や貢献、やらなければいけない仕事はありますが、その中でできる限り自由度を高めてあげることがカギになります。

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副業する人が二極化している