坂本龍一+高谷史郎《LIFE-fluid, invisible, inaudible…》2007 2007年に山口情報芸術センターで初公開された作品。この作品以降、坂本と高谷は水や霧を使った作品を繰り返し制作している (c)2024 KAB Inc.(写真:浅野 豪)
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 音楽家・アーティストの坂本龍一(1952-2023)の大規模な個展が東京都現代美術館(東京都江東区)で3月30日(日)まで開催されている。AERA 2025年2月3日号より。

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東京都現代美術館で、坂本龍一の大型インスタレーション作品を包括的に紹介する個展「坂本龍一│音を視る 時を聴く」が開催されている。このような大規模な個展は日本では初となる。

 坂本はさまざまなアーティストとのコラボレーションを通して、音を空間に立体的に設置する試みをしてきた。本展では、坂本の長年の関心事であった音と時間をテーマに、未発表の新作と、これまでの代表作から成る没入型・体感型サウンド・インスタレーション作品10点あまりを、美術館屋内外の空間に展示している。

被災ピアノとの出会い

 坂本龍一ともっとも多くインスタレーションを共作した高谷史郎との作品は5点展示されている。坂本と高谷が最初に手がけた《LIFE-fluid,invisible,inaudible…》は、頭上に浮かぶ霧発生装置付きの九つの水槽にプロジェクターの映像が投影される作品。流れる音は坂本のオペラ「LIFE」をベースとするサウンドである。霧の濃淡、映像、そして音は常に変化し、無限の組み合わせを作る。鑑賞者は起承転結があるオペラとは違った、自分だけの時空の流れを体験するのだ。

 それは、坂本が2011年の東日本大震災の津波で被災した宮城県農業高等学校のピアノに出会い、それを「自然によって調律されたピアノ」と捉え、世界各地の地震データを使って、地球を鳴動する装置となった《IS YOUR TIME》でも、会場のある地域の降水量データを用いて天井の装置から水盤に雨を降らせる《water state 1》でも同様。鑑賞者の数だけ「体験」は変わる。

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