坂本龍一×岩井俊雄《Music Plays Images X Images Play Music》1996-1997/2024 坂本が演奏する「アルスエレクトロニカ97」でのMIDIデータとその記録映像データからの再現展示 (c)2024 KAB Inc.(写真:浅野 豪)

 2017年にリリースされたアルバム「async」を「立体的に聴かせる」ことを意図し、制作されたインスタレーションも展示されている。Zakkubalanとの作品《async-volume》は、24台のiPhoneとiPadを壁に配し、坂本が多くの時間を過ごしたニューヨークのスタジオやリビング、庭などの映像が、それぞれの場所の環境音とアルバム楽曲の音素材をミックスしたサウンドとともに構成された。タイの映画監督・アーティスト、アピチャッポン・ウィーラセタクンとの作品《async-first light》は、「デジタルハリネズミ」と呼ばれる小型カメラを親しい人たちに渡して撮影してもらった映像で構成され、坂本は「Disintegration」「Life,Life」の2曲を映像用にアレンジした。高谷史郎との作品《async-immersion tokyo》 は、坂本の没後にこれまでの「async」シリーズを深化させた形でAMBIENT KYOTO 2023で発表した大型インスタレーションを東京都現代美術館の展示空間にあわせて再構成した新作だ。

哲学的な問い投げかけ

「音を視る、時を聴く」という言葉は、1982年に刊行された哲学者大森荘蔵と坂本龍一との対談集『音を視る、時を聴く[哲学講義]』に由来している。「坂本が追求し続けた『音を空間に設置する』という芸術的挑戦と、『時間とは何か』という深い問いかけは、時代や空間を超えて、私たちに新たな視座をもたらし、創造と体験の地平を開き続けてくれることでしょう」というゲストキュレーターの難波祐子さんの言葉通り、本展は、鑑賞者に多くの哲学的な問いを投げかける。

 展示の最後に登場する、《Music Plays Images X Images Play Music》は1996年に水戸芸術館で初演されたものの再現展示。ピアノを演奏する坂本龍一がすぐそこにいるように感じられる本作は、見る者に深い余韻を残す。

(ライター・濱野奈美子)

AERA 2025年2月3日号

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼