トランプ大統領(写真:アフロ)
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 なぜトランプ氏は返り咲いたのか。米国でいま、何が起きているのか。ジャーナリスト・思想史家の会田弘継さんと米国政治に詳しい同志社大学准教授の三牧聖子さんが語りあった。AERA 2025年1月27日号より。

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三牧:今回の米大統領選ではペンシルベニア州など七つの激戦州すべてでトランプが、僅差とはいえ一般投票でもトランプが勝ちました。これまで民主党は負けても「選挙人制度のせい」と言えましたが、今回は完敗を認め、原因を探究すべきです。

 ところがバイデンはつい最近も、新聞寄稿で「自分が出たら勝っていた」と示唆するなど、なぜ負けたのかの真剣な考察をしている風はない。今回の選挙では、マイノリティや若者など、従来の民主党の支持層がかなりトランプに流れた。民主党の敗北はバイデンだったら、ハリスだったらという候補者の問題よりも、より深い次元のものです。

絶望している国だから

会田:元FOXニュースの政治コメンテーター、タッカー・カールソンも「幸福な国はトランプを大統領に選んだりしない。絶望している国だから選んだのだ」と。何が絶望を生んだのか。

 理由の一つが1980年代、民主党がそれまでのニューディール型の所得再配分政策を放棄、労働者を「見捨てた」ことです。上位1%の富裕層と40%を占める中間層との所得格差は広がり、オバマ政権のリーマン危機対応失敗でさらに拡大しました。

 そんな格差への悲痛な叫びに、どちらの政党が応えるのか。破壊的に大きく現状を変えてくれると中間・貧困層に映るのは共和党だったのだと思います。

三牧:トランプの勝利が確実になると、サンダース上院議員がSNSに「まず白人労働者を見捨て、それからヒスパニック系と黒人の労働者を見捨てた民主党が、労働者に見捨てられたのは当然だ」と投稿しました。

 民主党は、世界一の富豪イーロン・マスクのトランプ陣営への巨額献金などを強調し、「共和党は金持ち政党だ」と主張しましたが、自分たちも同じようにみられていることに無自覚だった。当初ハリスは生活費の引き下げを強調しましたが、実現性に批判が出ると、あまり語らなくなった。企業から巨額の献金が入る中、大企業批判も影を潜め、民主主義の脅威や中絶の権利を前面に押し出した。もちろん大事なことですが、生活に困窮する人々には響かなかった。

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「エリートの政党」