もっとも今回労働者の票を積み上げた共和党も、引き続き移民の低賃金労働に依存したい大企業の利害と、移民の流入に反発する労働者との利害対立が既に表れており、労働者を幻滅させる可能性もあります。
会田:民主党がニューディール以来の支持基盤である労働者を見捨てた変貌の背景には、世界的に進んだサービス産業化やIT化という産業構造の転換と、そのことによる民主党のネオリベラル化があります。
もともと19世紀から20世紀前半は共和党の方が「資本家の政党」。ただその資本家とはエネルギー産業や鉄鋼、製造業などの旧産業でした。「どちらが労働者階級のための政党か」という立場の入れ替わりが起き始めたのが、産業構造がサービス産業へと大きくシフトし始めた1970年代、ニクソン政権時。さらに民主党は80年代半ばから金融・情報など「新しい産業」への依存を強め、エリートたちと結託する企業政党へと変わっていった。一方で共和党は製造業などの衰退産業で働く人々や、職を失い不安定な雇用状況に置かれる労働者たちをナショナリズムで引きつける「労働者政党」へとじわじわと変わっていき、2016年の第1次トランプ政権の大統領選で一気に転換した、という流れがありました。
「エリートの政党」
三牧:米国では大卒かどうかで賃金や社会的評価に、決定的な違いが出てしまう。マイノリティ票の動向に変化があった今回の選挙でも、大卒は民主支持、非大卒は共和支持という傾向は変わらなかった。マイケル・サンデルなど、民主支持の知識人も、人種差別や性差別に敏感な民主党が、学歴差別に無頓着なことに懸念を示してきましたが、今回も「エリートの政党」という印象を打ち破れなかった。
会田:転換期となった時期があります。70年代、経済的に人々の暮らしにある程度余裕が出てくると、社会で議論される「イシュー(論点)」が政治や経済的なものから文化的なものへと移り始めるんです。たとえば70年代から妊娠中絶などの文化イシューが徐々に重要視されたり。ただこれが、「普通の人々」の生活とはさほど関係のない、エリートたちの政治的なツールみたいなものになっていく。