加えて、経済がグローバル化すると、お金を生みたい産業にとっては「多文化主義」が必要な価値観になってきます。あらゆる宗教観、ジェンダー観、家族観を持った人たちに国境を越えて入ってきて働いてもらいたいから。つまり多文化主義はグローバル化する経済の、そしてエリートたちの要請なんです。

 でも一方で、グローバルに働く人たちを支える小売業や運送業、ホテル業などに従事する人は引き続き地元にいて動かないわけですから、当然、もともと彼らが持っていた価値観の中で生きていこうとします。上から目線で多文化主義を押しつけていたのでは反発も出てくる。そこに何の反省もなく来てしまったことも、トランプ現象を生み出す原因になったと思います。

三牧:今回の選挙でヒスパニック票が共和党に流れた背景の一つに、キリスト教信仰に基づく中絶への忌避感がありました。ハリスは中絶の権利を連邦法で保護すると掲げましたが、民主党は性の多様性は尊重しても、信仰や保守的な生き方、州の多様性を尊重しないとみられている。「多様性」は複雑で、それゆえに困難な課題です。このままでは民主党は文化闘争でも、負け続ける可能性がある。

 勝利した共和党の路線も定まりません。トランプの大統領就任を見据え、メタCEOのマーク・ザッカーバーグやアマゾン創業者のジェフ・ベゾスなど、ビリオネアが露骨にトランプに接近しています。結局共和党は、労働者の党ではなく、前とは異なる新たな企業政党へと変貌する可能性も否定できません。

会田:トランプ政権が重要な課題としているのは、産業構造が大きく変わる中、情報や金融を基軸としながらも「労働者を入れるための製造業」をどうやって取り戻すか、だと思います。つまり労働者の復権と、産業力の先端性を「両方とも」維持していく。そんな大きな戦略がバンス副大統領らを中心に動き始めているのは間違いない。

(構成/編集部・小長光哲郎)

AERA 2025年1月27日号より抜粋

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