工藤公康さん
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 現役中に14度のリーグ優勝、11度の日本一に輝き「優勝請負人」と呼ばれる工藤公康さん。福岡ソフトバンクホークスの監督としては、日本シリーズ制覇を5回も達成した。そんな工藤さんが気にしているのは、野球にデータを取り入れ、「科学的」に野球を分析するという昨今優勢となりつつある潮流だ。工藤公康さんが考える、「野球の楽しさ」とはいったい何なのか? 最新作『数字じゃ、野球はわからない』から内容を一部抜粋・再編集して紹介します。

【写真】「数字じゃ、野球はわからない」と語る名将・工藤公康さん

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 今、日本のプロ野球にしてもアメリカの大リーグにしても、野球界はさまざまな「数字」、いわゆるデータであふれかえっている。

 球場に設置された「トラックマン(ボールを追跡して数値化する装置)」や「ホークアイ(映像をコンピューターグラフィック化する撮影装置)」などによって、投球したボールの回転数や軸の測定、打球の弾道の測定、守備時の選手の動きの追跡などが可能となり、より簡便に数値や指標、つまりデータが得られるようになっている。

 その一端は、野球ファンも野球中継などで、投球のコースや球種、打球の軌道や速度の表示といったかたちで、ごく日常的に目にしている。「ロサンゼルス・ドジャース大谷翔平選手の2024年シーズンの平均打球速度は154.2キロで、大リーグ2位」といった情報も、ネットで検索したら誰でも入手できる。

 また、投手が「ラプソード(投球したボールの回転数や回転軸などを解析する装置)」の数値を見ながらピッチング練習をする、打者が「BLAST(スイング速度やスイング軌道などの計測機器)」を使ってバッティング練習をするといったことが、プロ野球に限らず、アマチュア野球でも当たり前のように行われている。

 ここ10年くらいで、いわゆる「セイバーメトリクス(統計学的なデータ分析手法)」や「バイオメカニクス(投球や打撃の動作データを力学的に解析する手法)」という科学的アプローチが普及し、球団のフロントや監督、コーチ、選手だけでなく、野球ファンもより「数字」に注目するようになってきた。

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