工藤公康さんの最新著作『数字じゃ、野球はわからない』

 もちろん、昔から「データ野球」はあった。野村克也さんの「ID野球」が有名だが、1980年代〜90年代に「常勝」と呼ばれた西武ライオンズ(現埼玉西武ライオンズ)もデータ野球をやっていた。

 ただ、昔はスコアラーや選手などが目で見て情報を集め、手作業でデータ化していた。それがテクノロジーの発達によって、収集できる情報量が膨大になり、データの整理の仕方も多様になった。

 たとえば、今はごく普通に取り上げられているOPS(出塁率+長打率)にしても、昔のプロ野球にはなかった打者の評価指標である。
 

 さて、ここからが本題。

 データを分析するだけで、試合に勝てるだろうか。

 あるいは投手や打者の体の動きや球質、スイング軌道などを数値化(可視化)するだけで、その技術やパフォーマンスが向上するだろうか。
 

 当然ながら、答えは「ノー」だ。

 たとえば、得点との関係性が高いと言われているOPSが高い打者を単純に並べても、実際の試合ではなかなか得点に結びつかない。

 その時々の結果は、心身のコンディションなどを含むそのときの選手個々の状態、つまり「数字に表れない」部分に大きく左右されるからだ。

 データはあくまでも「過去の結果」に過ぎない。

 要は、さまざまなデータを踏まえたうえで、選手の「今の状態」を見極めることが監督やコーチの腕の見せどころになる。

 私は福岡ソフトバンクホークスの監督時代、その日の打順を考えるときに大いにデータを参考にした。ただし、試合前のバッティング練習の「打球音」を聞くことも忘れなかった。

 状態のよい選手は、木製のバットで打っているにもかかわらず、金属のような非常に高く、乾いた音がする。逆に状態のよくない選手は、潰れたような低い音がする。この目で打球の強さや打球方向などを見て、この耳で打球音を聞いて、選手のその日の状態を確認し、最終的に打順を決めていた。

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