これはほんの一例に過ぎない。
要するに、野球は数値化されない部分にこそ多くのヒントが隠されている。
たとえば、ラプソードやBLASTを使った練習にしても「なぜその数値が出ているのか?」を考え、試行錯誤を重ねながら自分の「感覚」に落とし込んでいくことが重要なのだ。しかも、実際の試合での投手対打者においては、たとえば「読み」といった心理戦の部分が勝負を大きく左右する。
当たり前の話だが、野球の主役はあくまでも「今、ここでプレーしている人間」だ。そうである以上、野球のことは「数字」だけではわからない。だからこそ、野球は面白い。
もちろん、チームが試合に勝つために、選手が成長するためにデータは重要である。
しかし、より重要なのは「そのデータをどう活用するか」という、やはり人間の思考と行動のほうだろう。
最新刊の『数字じゃ、野球はわからない』では、そんな数字に表れない野球の面白さ、あるいは奥深さについて、今と昔の野球を比較しながら、思いつくままに私の野球観を記した。
また、「今の科学的な野球が正しくて、昔の根性論的な野球は間違っていた」と思われがちな風潮、ある意味、短絡的な野球の見方に対する違和感も執筆の動機の一つになっている。
この本が愛すべき野球ファンにとって、野球にあれこれ思いをめぐらすヒントになってくれたら幸いである。
(工藤公康)