自民vs.民主 週刊朝日恒例「永田町の闇鍋」
加藤紘一氏が「広く長いドラマ」を第一幕で下ろし、野中広務氏が幹事長を辞任、森喜朗首相が内閣を改造した十二月五日夜。東京・永田町の料理屋で“政界の黒マント”松野頼三翁を囲む与野党幹部の忘年会が開かれた。森政権の行く末から加藤政局の核心、参院選の戦略まで話題は沸騰。酔いも手伝い、しゃべってしまった。
松野 いい内閣ができたじゃないか。実務型でなかなか手堅いよ。
小泉 歴代の改造内閣で最高の出来でしょう。
麻生 総理大臣経験者が二人。
小泉 総裁経験者三人。各派の会長、網羅。新進気鋭の実力者、ぜんぶ。重量級の内閣ですよ。
松野 最後によく橋本が入ったね。
小泉 最後までやきもきしたんですよ。あそこが受けてくれるかどうかが、組閣の決め手だった。
松野 見通しはあったのかい。
小泉 最後まで五分五分です。今日の午後までわからなかったんだから。しかし、よく最後まで秘密が守れたよな。
麻生 知ってたのは口の堅い人ばかりでしたから。
小泉 今日の夕刊紙には「野中、橋本、入閣要請を拒否」って出てたからな。橋本派の人たちも気づかなかったようだし。
松野 田中真紀子の入閣の噂も出てたね。
小泉 それはねえ、おもしろかったんだけど、党内の反発が強かったなあ。
松野 だいぶいろいろ言ってたからね。
小泉 ま、今回の組閣は橋本さんが大目玉。大目玉人事だよ。
鹿野 われわれからすると、「ずいぶん古いなあ」って感じますけどねえ。
小泉 橋本さん、若いから。
鹿野 年齢じゃなくて考え方。ところで、小泉さんや麻生さんは、なんで入閣しないの?
小泉 それはいろいろ、人はたくさんいますから。
鹿野 あなたたちが入ると(自民党の)覚悟のほどが見えるんだけどね。
松野 いや、それはもったいない。小泉くんとか麻生くんとか、次の時代を背負う者も残ってないと困るからね。(笑い)
鹿野 どういう意味ですか、それは。(笑い)
麻生 今のはなかなか深いですね。うかつに相づち打てないなあ。(笑い) 鹿野 次、次って言っても当てにならないですよ。
松野 でも、今回は絶対に入るべきじゃない。最後の内閣じゃないんだから。
小泉 加藤政局が逆に森内閣を鍛えたな。災い転じて福となすというか、雨降って地固まるというか。森内閣がここまでやるとはだれも思わなかった。不信任案否決の後、退陣すると思ってた人がほとんどだったよ。森総理に改造させないということから政局になったんだから。
■不信任成立なら解散の腹だった
麻生 加藤さんは、どういう絵を描いて、どういう落としどころを考えていたのか、いまだにわからない。小沢さんが出たときは、国民の期待があった。でも今回は、国民に森さんへの不満はあったかもしれないけど、加藤さんへの期待は小沢さんの半分もなかった気がする。
鹿野 でも、変化は期待したんだよ。あれだけ多くのサラリーマンが、「今日は九時までに帰る」と言って、自宅で(採決が報じられる)テレビを見るのを楽しみにしたんだから。
松野 不信任案が通ったら、森には解散する元気はあったかい。
麻生 ありました。典型的な体育会ですよ、森さんは。僕は四票差で勝てると読みきったときに「もうない」と言ったけど、それまでは「これは解散だな」と思って、ちゃんと準備しましたよ。不信任案が通って解散しなかった例はないしね。
鹿野 それで自民党は頑張ったんでしょう。選挙やりたくないから。(もとは同じ派閥だった河野グループは反加藤グループと)一緒にならないの?
麻生 いやいや、まだそんな話はない。離婚もしてないのに結婚できないでしょう。(笑い)
鹿野 このごろはできちゃった婚っていうのがよくあるから。
麻生 加藤さんが不思議なのは、総辞職で首班指名になったら、民主党は加藤でいくと根回ししてあると思うじゃないですか。ところがどうも違う。
鹿野 私は代表と幹事長に言ったんですよ。うちには鳩山という総理候補がいるんだから(加藤支持は)筋が違う。解散に追い込んで選挙するしかないと。
麻生 正しい。
小泉 でも解散じゃなくて総辞職した場合は、首班指名選挙をしなくちゃいけない。そのときに加藤さんを民主党が担ぐかというと、決まってなかったんだよな。
鹿野 決まってなかったですね。
小泉 つまり「離党すれば担ぎます」「不信任案に賛成すれば離党しなくても担ぎます」というのは、加藤さんに対する罠だ。不信任案に賛成させて、首班指名になったら、民主党は鳩山代表を出すよな。
麻生 当然ですよね。加藤さん、そこがわからなかったんですよ。
松野 だから民主党は深入りするなというんだよ。加藤の言葉に乗るなと。加藤は中途半端で支離滅裂だった。国民は自民党内の争いではなく、政界再編だと思って拍手したのに、ふたを開けてみたら、単なる党内の勢力争いだった。
(ここで羽田氏到着)
小泉 民主党も加藤政局で、細川政権、羽田政権の再来を期待した向きはあったんだろうけどさ。
羽田 いやあ、わがほうは泰然自若ですよ。
小泉 加藤さんが「おれ一人でも本会議に行って不信任案に賛成する」と言ったときに、側近たちが止めないで、「大将が行くんなら自分も行く」と言いだしてたら、勝てたよな。
麻生 ぜんぜん別の局面ですよ、それは。
小泉 そしたら名誉ある孤立になったな。
羽田 そうなると道が開けるんだよ、必ず。
小泉 大平内閣のときに、福田派と三木派が欠席して不信任案可決しちゃったじゃない。あのときは、首謀者の福田と三木だけは除名しようという話が出たんだよ。それで俺たちが「御大が除名されるんだったら、俺たちも除名されよう」って言ったの。
羽田 その迫力が必要だよな。
小泉 そうなると議員の半分が除名されて党が割れるから、財界人が間に入って、結局、二人を除名できなかった。その迫力が加藤・山崎両派にはなかった。
鹿野 覚悟のほどがぜんぜん違うよね。
(ここで鳩山氏到着)
■鳩山一族は代々失言癖があるね
松野 選挙といえば、来夏の参院選は比例区が拘束式から非拘束式に変わるだろう。どうなんだい。
羽田 こればかりは、やってみないとなあ。
鹿野 自民党の目玉候補はできたの?
麻生 ない。鹿野道彦、出ない?(笑い)
鹿野 女子マラソンの小出監督とかにアプローチしてたようだけど。
小泉 してないだろう。
鳩山 うちは代表と特別代表と幹事長、三人とも出ますか。(笑い)
小泉 いまの選挙は難しいよ。栃木県知事選も、全党相乗り候補が新人に負けたんだから。民主党も相乗りしてたのに。
鳩山 負かすために相乗りするっていう手はありますね。(笑い)
麻生 さすがに、党首を長くやるといろいろ言うようになるねえ。(笑い)
小泉 やっぱり飽きだよな。よく自民党が中央政界で何十年も保ってるよ。
鳩山 まあ二十世紀まででしょう。
麻生 二十一世紀も百年あるからね。(笑い)
羽田 いやいや、民主党は結党から二年半で着実にここまできてるんだから。覚悟しといてよ。
麻生 だいぶ前に覚悟したんですけどねえ。
鹿野 だいぶ前って?
麻生 細川政権のとき。内閣支持率が七八%で、これは当分……それなのに半年しか保たなかった。うつろいやすいもんですよ。
鳩山 いや、あれは細川さんの心がうつろいやすかったんです。(笑い)
小泉 ところで民主党はどうやって政権取るの?
鳩山 それを言った瞬間に取れなくなりますから言いません。(笑い)
麻生 さすがに口が堅くなりましたね。(笑い)
鳩山 松野先生から「森くんも失言が多いけど、鳩山も多い」って言われましたから。(全員爆笑)
松野 総選挙のとき、「鳩山家は一郎のときから失言が多い。これは血統だからね」って言ったんだ。
鳩山 ハハハ。
小泉 でもやっぱり「こうして政権を取ります」って国民に明示しなきゃ。
鹿野 基本的には選挙ですよ。
松野 来年も忙しいな、選挙で。
小泉 二十七ある一人区で民主党がどれだけ勝てるかだよな。怖いんだよ、一人区は。
鳩山 勝たせていただきます。
小泉 選挙協力といったって、自由党や社民党と一緒は難しいだろう。
羽田 いやいや、案外おもしろいよ。共産党だって、選挙までに党名変えちゃうかもしれないぜ。
小泉 民主党がいいから民主党に入れるんじゃないんだよ。自民党がいやだから民主党に入れるっていうのが多いんだよ。
麻生 それがほとんどなんだ。
鳩山 いいんです、それでも。いちばん嫌われてない政党が、いちばん好かれたら強いですよ。まだ好かれてないけど。(笑い)
鹿野 今世紀は「まあ自民党か」で終わるけど、新世紀には有権者に大きな意識変化が起きますよ。
小泉 自民党のすごいところは、過半数を割ると、まず社会党を味方につけ、その社会党が去ると今度は公明党まで味方につけちゃう。体力が衰えてきたところをテクニックでなんとか維持してるんだ。(笑い)
麻生 選挙制度も変えちゃうしね。
鳩山 さっき高市早苗さんと一緒になって、「どうして入閣しなかったの?」って聞いたら、「いやよ、こんな政権」って(笑い)。もっと長続きするときにやりたいってね。
羽田 やっぱり泥舟だなあ。(笑い)
小泉 ま、おれなんか苦しいとこだよな。こういう支持率の低い内閣を支えてるんだもん。それを支える苦労っていうのはあるよ。自民党の強さは、私みたいに反主流になってもいい人が主流派になって支えてるところだよな。
麻生 ハハハハハハハ。
羽田 ホントに、見てて「エッ?」と思うときあるもんな。「この人、まじめに支えてるのかな」と思うときあるもん。(笑い)
麻生 いや、やるんですよ、やっぱり。
小泉 割り切ってやるんだよ。(笑い)
鹿野 まあ森さんが引き続きやるということは、来世紀は民主党が政権を取れと言ってくれてるようなもんですからね。
羽田 そう、親切に。
■蹴たぐり政権は保たないですよ
小泉 取れるかどうかだな、そこで。ホントはこの前の総選挙で政権取っててもおかしくなかった。
羽田 竹下さん、梶山さん、小渕さんと亡くなったら、厭戦気分になった。これは大きかったと思うよ。
松野 森のほうが、選挙はやりやすいかい。
鳩山 いや、われわれはそういう比較はしちゃいかんと思います。やっぱり、一日も早く森政権を倒すための戦略を練らなきゃいけない。
松野 加藤だったら、どうだい。
鳩山 今回のような形で加藤さんに代わっても、加藤総理にそれほど風は吹かないと思うんですよ。
小泉 でも民主党には、自民党のような、与党への執念がないからなあ。
松野 いまの民主党はまだ政権を取ったことないからだよ。その自覚がない。
小泉 そういう点は自民党に学ぶ必要あるよな。
鳩山 ただ、私は蹴たぐりで政権を取りたいとは思ってないんですよ。堂々と押し出しで勝ちたい。
鹿野 政治改革を掲げた者が、数合わせであっちこっち動けば、国民に受け入れられませんからね。
松野 選挙結果は四対四対一対一ぐらいになると思うんだよ。どこも過半数は取れなくてね。自民党は、そうなったときの執念がすごいんだよ。
鳩山 共産党とも組むかもしれない。(笑い)
小泉 それはない。
麻生 それだったら四と四で組むよ。(笑い)
松野 どうしたって連立政権だ。
羽田 それはそうですね。昨日の敵は味方で一緒になるかも。(笑い)
小泉 かつて自民党の大黒柱だった人の息子さんが民主党の議員だしさ、自民党の幹事長だった人が野党の党首だし、総裁だった人も出ちゃうし。わかんない時代なんだよ。
松野 わからんねえ。
羽田 そうだよなあ。党をつくった人の孫が出ちゃったんだからな。
鹿野 保守合同に参加しなかった吉田茂の孫のほうは残っとるわけですから。
小泉 政界の一寸先は闇だから、ホントにどうなるかわからんよ。
松野 いや、今日は楽しかった。どうもありがとう。