記者会見で背番号5のユニホームを手にする新庄剛志選手(左)と米大リーグ・メッツのボビー・バレンタイン監督=2000年12月16日、東京都江東区の東京国際展示場

なんでやねん、新庄剛志の米大リーグ・メッツ入り 徹底追求

 新庄剛志外野手(28)の新天地は、ニューヨーク・メッツ。五年前、「野球に対するセンスがない。能力がない」と言って引退騒動を巻き起こすなど、その言動から、「宇宙人」とも呼ばれた新庄、今回も、世間をあっと驚かせた。しかも、年俸は現在の約四分の一。ホンマかいな。
 

 「夢に挑戦したいと思いました。自分の決めた夢に向かって頑張るだけ」

 阪神からフリーエージェント(FA)宣言した新庄剛志外野手は十一日、米大リーグのニューヨーク・メッツ入団発表の会見で、そう語った。

 一方、メッツ側は、

 「新庄は運動能力に長けた選手。大リーグで必要といわれる『五つの道具』、すなわち、守備範囲の広さ、肩の強さ、足の速さ、パワー、打撃のすべてを備えている」(大慈弥功・極東担当スカウト)

 と評価する。

 プロ野球での通算打率が2割4分9厘(ちなみに、シアトル・マリナーズ入りするイチロー外野手は、3割5分3厘だ)と、けっして巧打者とはいえない成績だが、大慈弥氏は、

 「今季、打率で自己最高を記録し、一皮むけた印象があります。円熟期を迎え、これから安定した成績が残せると考えています」

 ついつい、ホンマかいなと言いたくなってしまう。

 なにしろ、FA宣言以後、

 「(選択肢の)最後」

 「ぼくの力では無理」

 など、直前まで新庄自身も大リーグ行きに関して否定的な発言を繰り返していた。阪神担当記者によると、メッツ入団発表の前日(十日)、阪神球団の幹部も、

 「明日(十一日)には、残留の方向で会見だろう」

 と言っていたのだ。

 「だいぶ昔から、大リーグに行きたいと相談を受けていました」

 という阪神球団の元渉外担当・本多達也氏が、

 「今回は、事前に何も聞かされていなかったので、驚きました。まさか本気で考えていたとは……」

 と語るなど、釈然としない関係者は多いようだ。

 阪神の同僚選手は、こう言う。

 「新庄はほぼヤクルト入りで決めていたようですから、メッツの“大逆転”があったということですね」

 大慈弥氏も、

 「こちらは、三年ほど前から注目していました。向こうは興味がなさそうだったのですが、あきらめきれず、メディアを通じてラブコールを送り続けていた」

 十二月一日、大慈弥氏が新庄に初めて会い、メッツ入団について尋ねると、「二つ返事」(大慈弥氏)で承諾した。

 メッツが提示したのは、大リーグ事情に詳しい関係者が、「新人扱い」と口をそろえる条件だ。大リーグ選手の最低保障額である年俸二十万ドル(約二千二百万円)と、契約金三十万ドル(約三千三百万円)。三年契約だが、二年目以降の契約継続の選択権はメッツ側にある。解雇する場合は、補償金二十万ドル(約二千二百万円)が支払われる。

 「一年で解雇される最悪の場合でも、契約金、年俸、補償金を合計すると、七十万ドル(約七千七百万円)で、現在の年俸(推定七千八百万円)とほぼ同じ。大リーグ移籍時に前年と同水準の年俸が保証されていたのは、伊良部秀輝投手ぐらいじゃないですか」(大慈弥氏)

 十月三十日にFA宣言した新庄に対し、阪神が五年契約で総額十二億円、横浜、ヤクルトがどちらも三年契約で六億円前後という厚遇を約束して争奪戦を繰り広げていたのにもかかわらず、新庄はそれを蹴って、メッツを選んだのだ(金額はいずれも推定)。

 カネより「夢」を重視したのか?だとしたら、ずいぶんロマンチスト。

 大リーグ挑戦の「真意」をめぐって、「メッツが経済効果を狙った」という説から、「新庄が深く考えずに決めた」という説、さらに過激な「珍説」が飛び交っている。

 たとえば、タレント転向へのステップ説。ある球団関係者によれば、新庄は、

 「将来は、タレントをしながら、何か商売がしたい」

 と夢を語っていたといい、

 「たとえ一年で解雇されたとしても、タレントとしてなら、『元大リーグ選手』という看板に商品価値があると考えているのでは」
 

■「野村逃れ」説や「誰でもよい」説

 さらに、こんな説もある。

 プロ野球担当記者は、

 「三年契約のはずの阪神の野村克也監督が実は五年契約だった、という説が球団周辺で流れたんです。新庄の大リーグ入りは、これに関係しているのでは」

 と、声を潜める。

 「来季は三年目ですから、野村監督が苦手な新庄も、『もう一年、我慢すれば監督が代わる』と、残留に傾いていたようです。でも、五年契約なら、まだ三年間辛抱しなければならない。耐えきれず、阪神を出る気になった」(前出の記者)

 大リーグの球団経営に詳しい関係者が語る。

 「大慈弥スカウトには、あまり実績がないようです。一方、スカウト活動には、莫大な費用がかかる。メッツ経営陣が極東・アジア担当部署を縮小するか、スカウトを取り換えるかの選択を迫られ、大慈弥スカウトは今年、だれかアメリカに連れていかなければならなかったとの説もあります」

 なんとも失礼な話だが、大慈弥氏は一笑に付す。

 「獲得した選手が活躍しなければ実績になりませんから、だれでもいいというわけにはいかない。また、これから大リーグを目指す日本人選手は増えるでしょうから、リストラなんか考えられません」

 そう、肝心なのは、新庄が大リーグで活躍できるかどうかだ。メッツのボビー・バレンタイン監督は十六日の記者会見で、新庄の起用法について、

 「春季キャンプでの動きを見て決めるが、二番、三番、六番、七番と、いろんな打順を試そうと思っている」

 と語ったが、新庄の評価を聞かれると、

 「まだ勉強しているところだが、確実にわかっているのは人気があること」

 大リーグ解説者の福島良一氏は、こうみる。

 「メッツの外野は実績がない選手が多く、レギュラーをとれるチャンスは大きい。キャンプの一カ月間で自信をつけられるかどうかがカギでしょう」

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