松田優作、たった一度の褒め言葉 原田美枝子 聞けなかった遺言
そりゃあ、怖かったですよ。何事にも真摯な人で、私がそのときどんな状態でいて、何を考えているのか、顔を見ただけで見通してしまうんですから。
俳優・松田優作さんが膀胱がんで亡くなったのは一九八九年十一月六日。享年三十九。原田さんは女優の美由紀夫人を通して家族ぐるみのつきあいを続けていたが、優作さんとの会話は仕事の話が中心だった。
優作さんに会うと、いつも最初に聞かれるのは、
「いま何やってんだ、おまえ」
そのとき私がどんな仕事をしているか、きちんと説明しなくちゃいけないんです。でも、これがしんどくって。ちょっとでも愚痴っぽいことを言ったりすると、バサッと切られちゃうんですから。
優作さんには、会うたびに叱られていました。でも、たった一度だけ褒められたことがあります。
映画「乱」(八五年)に出演した後、次に何をしたらいいかわからなくなった時期がありました。その後、「火宅の人」(八六年)で日本アカデミー賞助演女優賞をいただいたんです。そのとき、
「新人賞は勢いで取れる。でも、お前が二十八歳でもらったこの賞は、自分を変えようと努力した結果だ。よかったな」
って言われた。本当に嬉しかった。
単刀直入で、言葉でわからないときは殴ってでもわからせようとしたときもあったけど、禅堂で仏教と出あってから変わった。穏やかな言葉で温かく助言してくれるようになりました。
最後に優作さんに会ったのは、米国での撮影(映画「ブラック・レイン」)から帰ってきたあとです。
「オレはやるぜ」
と、自信たっぷりに言っていたのが、いまも耳に残っています。
自分が率先してハリウッドで学んだことを、これから日本映画に注ぎ込んで、おもしろくしてやろうと意気込んでいたんでしょう。あのまま元気だったら、役者はもちろん監督業にも力を入れて、おもしろい作品を撮っていたんじゃないかな。
優作さんは今も私の心の中にいるような気がします。でも会いたい。きっと、もっとカッコよくなってるんでしょうね。(談)