
全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA 2023年4月17日号にはアルファコード プラットフォーム事業部 開発マネージャーの野村譲誉さんが登場した。
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専用ゴーグルをつけるだけで、その場にいながらにして別の空間へ──。そんな仮想現実(VR)の世界を気軽に活用してもらえるサービスを開発する部署で手腕を振るう。
「現実ではないと誰もがわかっているはずなのに、あたかも現実であるかのように錯覚してしまう。それがVRの面白さです」
例えばゲーム。VRを使えば、ゲームの世界にプレーヤーが入りこんだように感じさせる技術で、面白さは格段に高まる。ビジネスでは、医療や航空などの分野で訓練にVRを取り入れた手法が活発に使われている。
VRの可能性を広げるため、日常のさまざまな場面で想像を膨らませる。会社に向かう電車内、友人との散歩中、帰宅後の湯船の中。どんなところにいても頭の中は「この場所でどんなVRが見られたら面白いか」。それが仕事でもあり、幸せな時間でもある。
元々はVRとは縁遠い職場で働いていた。大学では法律を学び、父親が営む行政書士事務所に就職。「長男なので父親の後を継ぐのが当たり前だと思っていました。まわりが就職活動で忙しくしている中、将来について深く考えることもありませんでした」
転機は突然訪れた。父親が事務所を閉じることになり、新たに職を探す必要に迫られた。「本当は何をやりたいのか」。初めて真剣に考えた時、ものづくりが好きだったことを思い出した。
地元の職業訓練学校でプログラミングを一から学び、モバイルサイトの開発などを手がける会社に就職。これまでの遅れを取り戻そうと「人の2倍」を目標に働き、常に顧客の期待値を超える結果を出してきた。
仕事を通してVRを知り、コンテンツの作成に挑戦。学べば学ぶほど面白くなり、VR開発に専念できる転職先を探した。今の会社の面接で自作のコンテンツを披露し、社長と意気投合した。
いま最も注力しているのは、VRをもっと手軽に見てもらえるデバイスを作ることだ。「最終的にはゴーグルを眼鏡ぐらいに軽く、着けやすくするのが目標です」
ゴーグルをかけるだけでバーチャルペットと会話ができたり、会社の会議ができたり。いつでもどこでもだれとでも、そんな使い方ができる日は近いかもしれない。(ライター・浴野朝香)
※AERA 2023年4月17日号