僕が最初に村上春樹を研究したのは、ハーバード大学の院生だったときですが、非常にエキゾチックな扱いをされているところが面白かったですね。日本人にとって彼の作品は、アメリカ文学的な要素を感じさせるものだと思いますが、海外の人には逆に非常に日本的な作品として読まれています。だから同じ表現を読んでも、とらえ方が違ってきます。
たとえば『海辺のカフカ』のなかに、急に空から魚が雨のように降ってくるシーンがあります。この部分は日本では聖書に出てくるような描写だと解釈されていますが、アメリカの雑誌「ニューヨーカー」では、日本は神道の国で宗教的に考えると当然起こると分析していました。本の装丁もそうです。『ノルウェイの森』は日本ではクリスマスカラーのデザインですが、英語版だと日本人女性の写真が使われています。
僕はそうした比較評論のような研究をしていて、元々そのために日本に来ました。すぐに日本が大好きになり、大学院を修了してからもこうして日本に暮らし続けています。つまり、村上作品に出合わなければ、今の生活はありません。間違いなく僕の人生を大きく変えた人です。
(構成/編集部・大川恵実)
※AERA 2023年4月17日号