第28回司馬遼太郎賞(司馬遼太郎記念財団主催)が2日、麻田雅文・岩手大准教授(44)の『日ソ戦争 帝国日本最後の戦い』(中公新書)に決まった。
【写真】司馬遼太郎賞を受賞した「日ソ戦争 帝国日本最後の戦い」
「日ソ戦争」とは、第2次世界大戦の末期、1945年8月8日から始まり、日本がポツダム宣言を受諾して8月15日に米英との戦闘を終えた後も続き、満州や朝鮮半島、南樺太などで9月上旬まで繰り広げられた全面戦争のこと。これまではソ連が中立条約を破棄したことなどが断片的に知られてきたが、麻田さんはロシア公文書館などから新史料を発掘し、米国がソ連に参戦を強く要請し続けてきたことなど、この戦争の全貌を解き明かした。
「新史料をもとに書いたソ連と米国の協力」
記者会見で、選考委員でノンフィクション作家の柳田邦男氏は、
「今まで第2次世界大戦を語るときは日米戦争が中心となっていた。いわば空白地帯となっていたソ連との戦争をしっかり埋めてくれたこの本の意義は大きい」
と語った。
また、選考委員で小説家の安部龍太郎氏は、
「日ソ戦争というとソ連が一方的に侵略したという文脈で書かれることが多いが、ソ連が米国との協力の中でその作戦を取ったことを新しい史料をもとに、見事な筆致で書かれた」
と評した。
ロシアへの興味のきっかけは「坂の上の雲」
オンラインで会見に応じた麻田氏は、
「日ソ戦争に光があたったことで、この戦争で犠牲になった人たち、今まで語られなかった人たちに光があたるのが一番うれしい。ロシアに興味を持ったのは司馬先生の『坂の上の雲』を読んだことがきっかけだった。司馬さんの名前を冠した賞の受賞は、感無量です」
と喜びを語った。
麻田さんは近現代の日中露関係史が専門。他の著書に、『中東鉄道経営史 ロシアと「満州」1896-1935』、『シベリア出兵 近代日本の忘れられた七年戦争』、『蒋介石の書簡外交 日中戦争、もう一つの戦場』などがある。
贈賞式は来年2月11日、大阪府東大阪市の文化創造館で開かれる「第28回菜の花忌」シンポジウムの中で行われる。
(藤井達哉)