「AERA dot.」に最近掲載された記事のなかで、特に読まれたものを「見逃し配信」としてお届けします(この記事は10月12日に「AERA dot.」に掲載されたものの再配信です。年齢や肩書などは当時のもの)。
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他人の前では動くことも、しゃべることもできなくなってしまう「場面緘黙(かんもく)症」という障害があるパティシエの少女を取材したのは2021年の年の瀬のこと。店舗兼工房を立ち上げ、お菓子の販売を始めた母は、娘が障害を克服するのではなく「ハンディと共に生きていく道」を必死に模索していた。あれから約3年。母と子は、その後をどう歩んでいるのか。
滋賀県近江八幡市に住む杉之原みずきさん(17)。特別支援学校2年生の彼女は、家の中では家族と普通に会話ができるが、他人の前など不安を感じる場に立つと、動くことも声を出すこともできなくなってしまう「場面緘黙症」と、自閉症スペクトラムという複雑な障害の当事者だ。
診断されたのは小学校入学前。母の千里さんいわく、兄と一緒なら小学校に登校はできるが、家族と離れた教室では「固まってしまう」状態になる。じっとだまって机に座ったままで、トイレにも行けず給食も食べられなかった。
「何もできひん(できない)子」
無邪気さゆえだが、子どもたちから、そんな風に言われたこともあった。
次第に学校に行かなくなり、家に閉じこもるようになったみずきさんだが、千里さんがスマートフォンを買い与えると、料理作りのアプリにハマり、お菓子作りに没頭するようになった。
小学生にして、しかも独学で、家族も驚くほどの独創性のあるおいしいケーキやお菓子を次々に作る。SNSに写真を載せると、たちまち評判になった。
障害が治らないだろうか。そんな思いにとらわれ、泣いてばかりの時期があった千里さん。お菓子作りの才能に、ひと筋の「光」を感じ、2020年1月に「みいちゃんのお菓子工房」をプレオープン。地元のテレビ番組などで紹介されたこともあり、開店の日には行列ができたり、ホールケーキの予約がひっきりなしに入るほど、大きな反響を呼んだ。
障害を克服するのではなく、「障害とともに生きていく道」を探る。そのころには、千里さんの思いも大きく変わっていた。みずきさんが義務教育を終えた昨年春に、満を持して店をグランドオープンさせた。
だが……。