動物たちの“幸福な暮らし”を実現するため、具体的にどうすればいいのか? こうした「環境エンリッチメント」という観点から、全国で個性的な動物園が増えています。そんな動物園の動物たちの日常を撮り続けている、動物・写真家のさとうあきらさんの連載「どうぶつサプリ」。今回は、「おしり」の撮影について。「おしり」はただきれいに撮影すればいいわけではないと言います……。
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動物園に足しげく通って動物を見ている人でも、「インドサイを紙に描いてください」といきなりペンを渡されたら、さて、どんな体だったか、どんな耳だったかと、迷うハズです。わたしたちは、しっかり見ようと意識しない限り、たいていの物をそんなに細かくは見ていないようです。そこで今回は、狙いを「おしり」に定めて、じっくり見て撮影しようと考えました。
2007年に『おしり』(アリス館)という本を作りました。この本は、どんな内容にしようか、とアイデアを出す段階から作家、編集者、レイアウター、そしてカメラマンのわたしの4名で作っていきました。レイアウターは本のデザイナー、写真や文字の大きさ、配置のデザインを提案してくれます。写真を掲載する本では「どうみせるか」は重要な要素です。そこで、普段は最終段階で本作りに関わってくれるレイアウターにも最初から参加してもらいました。そのおかげもあって、写真の構成をより深く考えることが出来たと思っています。
最初に、「動物写真」を使った子ども向けの本は、どのような内容がふさわしいのかを雑談を交えてメンバーで話し合いました。 会って話し合うだけでなく電子メールなども使って何度もやりとりをします。そういう中からテーマを最終的に「おしり」と決めました。テーマが決まった後は、本の内容に合わせて撮影します。シマウマを撮影するには、緑の背景がきれいな動物園にしようとか、マンドリルのおしりは、あの個体がいいだろうなどと、動物園と動物種を具体的に決めたら、撮影の開始です。
ある程度おしり写真が撮れた段階で、再びメンバーに集まってもらい、プリント写真をテーブルに並べて見てもらいました。1枚、2枚、3枚と写真が増えるたびに「いいね、いいね」という声が聞こえます。ところが、10枚、11枚、12枚と枚数が多くなるにつれ、みんなの口数が少なくなりました。写真を並べ終わっても、誰も口を開かないので、わたしが「面白くないね」と言うと、誰かが「おしりが並んでいる!」と発言しました。まさに、そこには、おしりがたくさん並んでいるだけだったのです。
当時のわたしのスタイルは、フィルムがメインでデジタルの撮影はサブ使用でした。おしり撮影には、フィルムサイズが大きいブローニーの6×7(ロクナナ)や6×4.5(ロクヨンゴ)を使用しました。出来上がった写真は鮮明で、1点1点はきれいなのですが、並べてみると物体としての「おしり」はしっかり写っているのですが、子ども向けに物語を作りたくなる写真ではなかったのです。