この時「生きている動物たちを撮影する」という一番大切なことを思い出しました。フィルムや撮像素子が大きくなれば情報量の豊富な鮮明な写真になります。大きなサイズのフィルムを使用して、鮮明で細かい質感まで出した写真が、この本にはふさわしいだろう、と思って撮影しました。しかし、これだけでは足りないと気づいたのです。
生きた動物の「おしり」を表現するために、「動きのあるおしり」を狙うことにしたのです。そのために、小回りのきく35mmフィルムとデジタルカメラを併用して再撮影をおこないました。 具体的には、顔がほんの少し写っているような場面、この後、動物がどういう動きをするのだろうかと、見る人に想像させるような写真です。結局、構想から3年かかって、ようやく出版することが出来ました。
物事を進めていく時には「基本に戻って考える」ことが必要でしょう。何のためにおこなっているのか、を頭に置いておかないと失敗します。ただ、失敗するのは当たり前のことで、それに気づいた後に、どうするべきか、を考えることが大切だと思っています。特に大きな失敗になる前に「基本に戻って考える」ことは、とても大事でしょう。
『おしり』を作ってから、だいぶ時間が経過しました。今回、「おしり」をテーマにふたたび撮影したことで、基本が大切だということを再認識しています。フォトギャラリーには連続したものを掲載しました。ご自分で作例の中から1枚を選び、選んだ理由を考えてください。どんな写真でも、しっかり見て、自分が感じる「良さ」や「悪さ」が理解できるようになると、自分自身の作品へ生かせるようになっていきます。(写真・文/さとうあきら)
さとうあきら
動物・写真家。写真を見たみなさんが、「動物園や水族館で暮らしているすてきな動物たちに直接、会いに行ってほしい!」という願いを込めて撮影しています。
著書に『動物園の動物』(山と渓谷社)、『みんなのかお』、『こんにちはどうぶつたち』(福音館書店)、『おしり』『どうぶつうんどうかい』(アリス館)ほか多数。季刊『サイエンスウィンドウ』(科学技術振興機構)で、「動物たちのないしょの話」も連載中