匿名で取材を受けたのは「ネットの時代の今、娘を守るため」と話す女性。誰もが母親になることができる社会であってほしいと願っている(写真:女性提供)

 現在は生活の拠点を海外に移した。残業がなく子どもに寛容な海外の方が子育てをしやすいと判断したからだ。勤務先のすぐ近くに住み、できる限り、娘との時間を確保しているという。ひとつひとつの出来事が愛おしく、母親として慌ただしくも充実した日々が過ぎていく。

「父親不在で子どもが寂しい思いをしないか不安になることもあります。でも、ドナーチャイルドは一般の子どもと何も変わりがなく、親子のコミュニケーションが重要という海外の大学の研究データもあります。娘には毎日、会いたくて仕方がなかったことや大好きという気持ちを伝えています」

誰のための法案なのか

 女性がいま最も気になっているのは、日本の「特定生殖補助医療法案」に関するニュースだ。骨子はいくつかあるが、その中に「精子や卵子の提供を受けられるのは法律上の夫婦に限定する」ことが示されているのだ。法案は年内の成立が濃厚とみられている。女性は「世界的に多様性が重んじられる風潮の中、法律の内容は逆行していると思います」と危機感を口にする。

 不妊カウンセラーで、自身も第三者からの精子提供で子ども2人を出産した経験のある伊藤ひろみさんは、今回の法整備について「メリットよりも、デメリットの方が大きいと感じています」と指摘する。

 法律婚の夫婦にとっては人工授精に加え、これまで認められていなかった体外受精も可能になる。しかし、法律婚をしていない人たちは、これまで法律上は可能だった提供された精子や卵子による医療が受けられなくなるのだ。冒頭の女性のように、子どもを持ちたいシングルや、LGBTQカップルもいる。23年には精子提供の対象者拡大を求める署名が1万筆を超えた。

「当事者が納得していないのに、『誰のための法案ですか?』と疑問に思います。もっと国民的に議論すべきテーマだと思っています」(伊藤さん)

(フリーランス記者・小野ヒデコ)

AERA 2024年11月4日号

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