AERA 2024年11月4日号より

劣等感を抱えている

 自らの意思ではなく専業主婦になったものの、子どものために「これでよかった」と考える人もいる。愛知県に住む女性(51)は大学3年のときにパニック障害を発症した。卒業後は実家が営む店で働いていたが、結婚して子どもが1歳になった頃から症状が悪化し、仕事を離れることに。以来、専業主婦であることを肯定したい気持ちと、外で働いていないことへの劣等感を両方抱いてきた。

「世間には『働く女性が正しい、主婦なんか古い』みたいな空気が漂っていて『働いてないとダメなの?』と感じさせられる。自分を『生産性がない』と感じてしまい、ずっとモヤモヤしてきました」

 逆に「専業主婦でよかった」と感じたのは、子どもの問題に直面したときだった。

「娘が高校生のとき、学校に長く居られない時期があったんです。私は家にいたので、娘から電話があればすぐに迎えに行ったり、学校に送ったりしてあげることができた。娘も『お母さんが家にいてくれたから安心できた』と言っています。仕事をしていたらできなかったことです」

 同様の話は千葉県に住む女性(43)からも聞いた。女性は結婚前、地元の本市でMRとして働いていたが、夫と結婚するため離職し、福岡へ移った。保育士と社会福祉士の資格を取得して仕事を再開するつもりだったが、今度は夫が東京へ転勤になり、またしても再就職は実現しなかった。

生き方を選べない

「でも今はこの状態がベストと思っています。娘が不登校になり、学校と連携してホームスクーリングをやっているので。私が仕事を始めたら、できなくなってしまいます」

 息子が0歳のときにも女性は同じようなことを感じていた。川崎病に罹患した息子が70日ほど入院した際、病院は母親が泊まり込みで付き添いをすることを求めた。とても仕事をしながらできることではなかった。

「私は小学生のときに教員だった母親を過労で亡くしている。だから猛烈に働きたいとは思っていなかったんですが、専業主婦になりたかったわけでもない。今こうしているのは偶然ですが、結局、言うほど生き方って選べませんよね」

 専業主婦でよかったという思いは同じでも、自身が選んだ状況か否かで受け止め方は異なるし、自分が選んだのかどうか、本人にすらはっきりとわからないこともある。「生き方を選べない」のは、今も多くの女性の現実ではないだろうか。

(ライター・大塚玲子)

AERA 2024年11月4日号より抜粋

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