広大なアフリカ大陸のうち25カ国を訪ねてきた、フリーランスライターで武蔵大学非常勤講師の岩崎有一さんが、なかなか伝えられることのないアフリカ諸国のなにげない日常と、アフリカの人々の声を、写真とともに綴ります。
南アフリカ共和国で開催された、アフリカ最大規模の観光見本市INDABA(インダバ)に参加した岩崎さん。視察に伴って滞在した郊外のホテルも、気持ちのいい宿ばかりだったという。施設やサービスもそうですが、岩崎さんが最も評価しているのは「人の近さ」だといいます 。
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南アフリカ共和国(以下南ア)の宿泊施設の素晴らしさを知っているだろうか。
広い室内、大きいベッド、のりの効いたシーツ、消毒液の残り香がする清潔なバスルームなど、文句のつけどころがない。朝食も素晴らしい。焼きたてのパンやパイ、しぼりたてのジュース、現地で作られたソーセージやハムなど、美味で豊かな食事が、ビュッフェ形式で用意されることが多い。
そして、すべてが、大きくゆったりとしている。室内のベッドだけでなく、ソファやテーブルセットなど、調度品にせせこましさがない。また、廊下や天井、席と席の間隔など、あらゆる「間」が広く大きく構えられている。日本の3倍を超える国土面積に、日本の8分の1以下の人口密度しかない南アフリカには、人間が暮らすスペースが潤沢にある。
南アでは、どの地域を訪ねても、質の高い宿泊施設にめぐりあえることができる。2010年のサッカーワールドカップ開催前に、南ア全域に展開するワールドカップ開催スタジアムを全て巡ってみたことがある。大都市はもちろんのこと、郊外や農村部など人気の少ない地域でも、もれなく素晴らしい宿を見つけることができた。今回、同国で開かれたアフリカ最大の観光見本市INDABAの視察に伴って滞在した郊外のホテルも、やはり気持ちのいい宿だった。
なだらかな丘陵と切り立った山並みが混在するドラケンスバーグ地方では、周囲にドラケンスバーグ山脈を臨むホテルに滞在した。居心地のいい室内からだけでなく、スパ専用の建屋や、プールサイドのバーなど、敷地内のどこにいても見事な景観を楽しむことができる。
ムクゼ動物保護区にほど近いホテルでは、6ヘクタール(つきなみな例えではあるが、東京ドームの約1.2倍)の敷地に、平屋建ての部屋が51室展開。青々とした芝生が広がる中庭の先には、湖畔に泊まるボートが見える。まさに、絵はがきのような風景だ。
いずれもそれぞれの地域を代表するトップクラスの宿泊施設だが、日本と比べれば料金はだんぜん安い。両ホテルとも、1南アフリカランドあたり7.5円として計算すると、2名1室での1泊1室あたりの料金は13000円程度から。「お一人様あたり」で言えば7500円で、これだけの景観と設備の整ったホテルに泊まることができる。スイートルームに泊まらずとも、この料金でスイート感覚が味わえるのは、南アならではだろう。
しがないフリーランスの私は、今回のような高級ホテルに泊まることは、まずない。しかし、シンプルな安宿であっても、私が南アで泊まった宿はどこも清潔で居心地のいいところばかりだった。極めて安価なバックパック向けゲストハウスからトップエンドまで、南アの宿はどこもすばらしい。