千葉の大江戸温泉物語浦安万華郷でのステージ。左から岩永、後上翔太(37)、白川、酒井。温浴施設でのコンサートは今やプレミアムチケット。残念ながらこの施設は2024年6月での閉館が決定した(撮影/工藤隆太郎)

 大きな声でときに熱く、ときに漫談のように自在にトークを操る。気付けば、酒井の話を夢中で聞いている。こうして様々な人を巻き込んできた。異色のプロデューサー、酒井一圭の人生とはどんなものなのか。

「テレビに出てるやつらと戦いたい」。そう親を説得して児童劇団に入ったのは8歳の頃。3度目に受けたオーディションで、当時の国民的な人気ドラマシリーズ「逆転あばれはっちゃく」で5代目桜間長太郎役を射止める。一躍、有名子役となったが、5歳下の弟には障害があり、母は弟につきっきり。現場には一度も来なかった。望んだこととはいえ、半年間も学校に通えない。目立つことへのやっかみからか、イタズラ電話はしょっちゅう、家の窓ガラスまで割られる。このままでは大変だと芸能界から足を洗った。酒井は言う。

「母親は喜んだ。このまま続けたら天狗(てんぐ)になって、とんでもない人生を送って犯罪者にでもなるんじゃないかと思ってたみたい(笑)。実際、大人に揉(も)まれるなかで『大人って大変やな。思ってもないけど、立場的に言わなきゃいけないことあるもんね。俺にはそんなこと言わないでもいいよ、分かってるから』ってそんなことばっかり言ってた。よく目の奥をのぞき込まれてましたね」

 10代後半に出た舞台でオファーを受け、「横浜ばっくれ隊」で芸能界に復帰するが、その後はパッとせず競馬にのめり込んだ。「東京競馬場があるから」と府中に引っ越したほどの競馬好き。同棲していた当時の彼女のヒモ状態で、気づけば競馬の借金は400万。とどめの一撃となったのは99年秋の天皇賞だ。ここらで「何か」来る予感がした。借金をして50万突っ込んだ。惨敗。立っていられないほどのショックで、人の肩を借りて家に帰りながら、こう思った。

「ってことは、競馬じゃなくて仕事か」

 その予感は的中。破産寸前で、01年、東映のスーパー戦隊シリーズ「百獣戦隊ガオレンジャー」のオーディションで、5人の戦隊ヒーローの一人、ガオブラックに選ばれた。

不思議と人を巻き込む力 「酒井祭」で600人集客

 しかし、ヒーロー卒業後も人気が続く役者はわずかだ。主役のガオレッド役に選ばれた金子昇も酒井同様に背水の陣でこの仕事に賭けていた。二人はタッグを組み、生き残りをかけ、ここからどう這(は)い上がるかを考え続けた。作品の質を上げようと大仰な芝居をやめた。宣伝ができる番組や雑誌があれば可能な限り顔を出し、「トゥナイト2」にも出演。2ちゃんねるに「酒井一圭本人だけど、何かある?」と降臨し、お祭り状態になったことも。特撮ファンの間では「久々に面白いやつが現れた」と評判になった。

 そんな行動を温かく見守っていたのが同番組のAPを務めた東映の横塚孝弘(50)だ。

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