日本一、遭難者が多い山は富士山でも日本アルプスでもない。なんと標高599メートルの高尾山(東京都)だ。昨年の遭難は100件を超える。紅葉シーズンを迎え、入山者が増える。身近な山で何が起こっているのか。
【写真18枚】山頂にひらひらスカートやベビーカー…身近に潜む危険【実録ルポ】
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山頂で弁当を広げて缶ビール
記者が高尾山を訪れた日は好天に恵まれ、平日にもかかわらず、山頂は大勢の人で賑わっていた。親子連れや高齢者のグループ、外国人観光客がのんびりとくつろぎ、弁当を広げて缶ビールを飲んでいる人もいる。
だが、このすぐ近くに危険は潜んでいる。
「『ここから山道』って、(標識に)書いてある。面白そうだから、ちょっと行ってみよう」
「えーっ、危なくない?」
「大丈夫、大丈夫!」
山頂直下の登山道「4号路」の分岐では、50代くらいの夫婦が立ち止まり、こんな会話を交わしていた。夫婦は街を散歩するような軽装で、女性はロングスカートにハンドバッグを持っていた。その先は急な下りだが、夫婦は森の小道を進んでいった。
しばらく歩けば「転落事故あり」
高尾山は山頂までは「1号路」と呼ばれる舗装された道を登る。
だが、下りの登山道の分岐に、山道があるのだ。この夫婦のように「別の道を下ってみよう」と、登山の装備なしに山道に入る人が後を絶たないという。
さらに、4号路をしばらく歩けば、「転落事故あり」と記された標識が立っている。その脇を20代くらいのカップルが通り過ぎていく。ジーンズとシャツ。やはり、いわゆる普段着だ。
「登ってきた(舗装された)道とは全然違うね」と、男性が言うと、女性は「正直、あまりにも違いすぎて、ビビってる」。
滑落事故で亡くなった人も
その直後、女性が「わっ!」と声を上げた。湿った岩に足を滑らせたのだった。
「こんなところを落ちたら、マジ、シャレにならないよね」
そのとおり、シャレにならない。実際、4号路ではたびたび滑落事故が発生し、亡くなった人もいる。
東京都心から高尾山登山口までは電車で1時間ほど。2007年、高尾山はミシュラン社の著名なガイドブックで最高評価の三つ星を獲得して登山者が急増。同年、京王線高尾山口駅の一般乗降客は約240万人だったが、わずか2年後には300万人を突破した。外国人の姿も目立つ。