やがて、あるメーカーと接点ができた。僕世代の自作派が必ず一度はお世話になったはずのFOSTEXである。僕は学生のころから、価格が手頃なこのメーカーの商品を購入して、いろいろと作ってきた。現在鳴らしているスピーカーにも同社の製品が組み込まれている。

つい口を滑らせた結果、辿り着いた「立ち位置」

 僕としてみたら、憧れのメーカーだったわけで、最初は「よろしくお願いします」と低姿勢だったが、徐々に増長し、エラそうなことを言うようになった。箱を組んで鳴らすという経験はそれなりに積んできたので、業界の空気を吸って、次第にプロを気取り出したわけである。

 最近、同社が新商品のユニットを出し、試聴しに来てくれと誘われた。別に原稿を書く予定もなく、むこうが招待してくれた。先方の好意だと言えよう。しかし、にもかかわらず僕は、商品をはめ込んだ箱が気に入らず、いろいろと難癖をつけた。特に低音の出方が好みの音になっていないと言った。もちろん、僕もものを作る人間ではあるので、死に物狂いで作った作品に文句を言われれば、面白くないのは当然だと知っている。悪いなと思いながらもつい口が滑ってしまった。ところが、ここからが面白い。憤慨した(?!)FOSTEXは、ある技術者に指示し、僕の好みの音が出るようなキャビネットを設計させ、試作品を作ってから、もう一度僕を試聴室に呼んだ。こうなると、行かないわけにはいかない。

 やられたと思った。正直、失礼ながら、こんな安い価格の部品を使ってこれだけ音を出してくるとは予想しなかった僕は、やはりプロはちがうと恐れ入った。そして、自分はやはり趣味の領域からヤジを飛ばしているヤジリスト(雑誌「広告批評」の天野祐吉氏の造語)にすぎないと思い知ったわけである。そして、趣味人に戻って言ったかというと、そういうわけでもなく、こういう原稿を書いている。

 趣味は仕事にしないほうがいい、という意見をときどき耳にする。実際、映画業界で働いていた頃、この言葉が身に染みることがあった。けれど、小説家に趣味はない。それについて書けば、それは仕事である。

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